マンション爆増で豚舎を建てる土地がない

中国政府は、補助金や借り入れ金利の補填などの支援によって養豚業への参入を促進しているが、そのハードルは決して低くはない。ご存じのとおり、中国では多くの土地が“マンションの林”に化けてしまったからだ。2018年9月、自然資源部が行った第3次全国国土調査によれば、中国の耕地はわずか10年で1億1300万畝(約753万ha)も減ってしまったという。こうした土地不足の中で浮上したのが養豚場の高層化だった。

中国では一般的に平地で100頭を飼育するには4畝(約0.26ha)程度の面積が必要だとされている。揚翔PJを例にとると、35万頭を飼育するにはざっくり1万4000畝(約933ha)の土地が必要となるが、それを140畝の用地面積にとどめているということは、ビル化は100倍の利用効率をもたらすことになる。この革命的な養豚が軌道に乗れば、「養豚ビルを小都市ごとに数カ所に設ければ人口を養えるのではないか」と発想する中国の専門家もいる。

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給餌、飼育、屠畜、流通までをAIで管理

養豚業の「高層化」は、環境保護から生じた必要性だとする意見もある。広東省広州市増城区でもかつて養豚が栄えたが、中小の個別の農家が乗り出した結果、発生する臭気や糞尿の処理などの問題を引き起こし、結局8000近くの養豚場が閉鎖に追い込まれた。

こうした経緯を持つ同省にとって「養豚場の高層化」は、高度技術の利用で最新の集中管理を行うにはうってつけのモデルだったといえる。

17階建ての養豚場を稼働させるという揚翔PJは、仮に地下階と最上階を除いた15階を豚舎にした場合、1フロア当たりの年間飼育豚数は2万頭を超える。地元メディアの「広州日報」は揚翔PJについて、「国際競争に勝てる育種づくりから始まり、給餌、飼育、屠畜、流通に至る過程をブロックチェーンやAIで管理し、“スマート養豚”における支配的地位を目指すものだ」と伝えている。

アリババ、ジンドン、恒大集団…大企業がこぞって参入

養豚ビルの内部構造は今のところ定かではないが、既存の事例では、緩やかならせん状のスロープを使ったり、大型エレベーターを使ったりなどして豚舎内で豚を移動させている。例えば、中国南部の広西チワン族自治区では、7階建ての養豚ビルの内部が報道陣に公開された(ロイター、2018年5月16日)。同プロジェクトもこのような工夫を行うだろうと推測される。

養豚ビルについては158カ所の普及を見る広東省だが、揚翔PJ以外にも、汚染物質の排出ゼロを掲げたり、糞尿を回収したりして発電し、それを電力会社に売電するなど、循環型モデルの養豚場も続々と出現している。