ちなみに2019年には、アリババやジンドンなど中国の“ハイテク巨頭”も養豚に群がった。従来、ヒトが管理してきた養豚を「デジタルによる管理」するという戦略で、AIを駆使した顔認証で、給餌・飲み水・運動の状況などを把握し、豚舎内の無人化を構築するという「スマート養豚」を標榜している。中国のメディアでは、株式取得などの方法で不動産業界からも参入があったことも報じられている。多額の債務を抱えて経営難に陥った恒大集団でさえも、2020年当時、養豚に食指を伸ばしていた。
「50頭出荷すれば、サラリーマン年収の40倍」
養豚ビジネスの黎明期、上海近郊の農家では、自宅に小さな養豚小屋をつくることが流行っていた。1998年に筆者が訪問した上海市嘉定区の農家は、当時、豚小屋の拡張工事の真っ最中だった。上海の都市生活者の月給が1000元(当時のレートで約1万6000円)程度といわれる中で、養豚ビジネスは「1頭1万元(同16万円)で年間50頭出荷できれば、サラリーマン年収の40倍の収入(約50万元、日本円で約800万円)を稼げるんです」(訪問した農家の主人)と鼻息が荒かった。
その後、上海の養豚業は急速に拡大していった。筆者は2001年、上海市南部・奉賢区の大規模養豚場を訪れた。ここでは、香港市場向けの養豚が行われていた。香港の食肉は英国と同等の審査基準であり、一部が欧州にも輸出されていた。衛生面はもちろん、エサについても欧州標準で管理される。豚に与えられていたエサは、トウモロコシなどの雑穀に魚の骨などを混ぜた「化学物質不使用のエサ」だった。
太らせる“水増し注射”、ホルモン剤も横行
2000年代前半の上海では、こうした先進的な養豚場が出現する一方で、巷の生産農家では、体重を増やすための“水増し注射”や、成長を促すための怪しげなホルモン剤の投与などが行われ、急速に拡大する中国の食肉市場で、“豚肉の安心安全”は、常に社会で問われ続けていた。
この時期、中国都市部の食品売場では「双匯」ブランドのハムやソーセージが並べられていた。上海市民の食卓でもごく普通のブランドだったが、その後、双匯集団は急成長を遂げ、中国最大の食肉加工企業に成長した。2013年には、米食肉加工大手「スミスフィールド・フーズ」を買収し、翌年「萬洲国際」の名称で香港に上場を果たした。現在、国際企業として中国、米国、欧州を中心に世界40カ国で製品を販売している。
今や中国は、豚肉の生産量・輸入量ともに世界一だ。国家統計局によれば2021年、中国では6億7128万頭の豚が出荷され、飼育頭数は世界の半数近くを占めるに至っている。