ビルに住む豚は「工業製品」なのか
中国の養豚業界の急速な発展ぶりには度肝を抜かれる。過去20数年の変遷が物語るのは、「不可能を可能にしてきた猛烈ぶり」だ。恐らく、“ハイテクビル養豚”も、中国ならやってのけてしまうだろう。
しかし、前出の鈴木獣医は身構える。ひとたび病気が発生すれば、1フロア全体にいる豚を殺処分するという“無用な殺生”にもなりかねないからだ。それ以上に、鈴木獣医の目には、中国の超大量養豚が究極の“生き物工場”のように映る。
「中国は養豚を『工業製品の大量生産』と勘違いしていないでしょうか。産業動物とはいえ、豚もあくまでも生き物です。ここまで大規模化すれば、豚にさらなる負荷を与えることにもなりかねません」
日本では「アニマルウェルフェア」(快適性に配慮した家畜の飼養管理)という価値観が徐々に浸透を始めている。確かに豚は人間の血となり肉となる産業動物ではあるが、同じ生き物であるという視点を持った場合、経済合理性の一面だけでこの超大量生産を評価することはできない。
ウクライナ戦争によるトウモロコシ価格の上昇を受け、中国の養豚業界は一転して経営難に陥り、「損を出さないための餌減らし」が始まっている。上述した広東省肝いりのプロジェクトも幸先がいいとは言えない。投資回収、効率重視に傾斜するあまり、豚に皺寄せが及ぶこともあるだろう。超大規模養豚とテクノロジーの過信がもたらす影響の大きさが懸念される。