17階建てのビルに数万頭の豚がひしめき合う
畜産に力を入れる中国広東省で今、“同省お墨付きプロジェクト”として進められているのが「養豚ビル」の建築だ。同省では2~5階建てを中心とした養豚場がすでに158カ所に普及するが、2022年10月には広東省で最も高い「17階建ての高層養豚ビル」が操業を始めるという。
広東省のメディア「南方農村報」によれば、揚翔風行食品はじめ複数社が共同で16億元(約300億円)を投じて開発する「南沙揚翔風行養豚プロジェクト」(以下、揚翔PJ)は、わずか140畝(約9.3ha)の用地面積で年間35万頭の豚を飼育する計画だ。すでに上棟式が行われた「養豚ビル」の見た目はオフィスビルやマンションと変わらない。
日本の養豚は平屋で行われるのが一般的だ。福島県出身の獣医師で養豚場での経験もある鈴木朝久氏は「17階建ての養豚場など、日本では見たことも聞いたこともない」と目を丸くして驚く。
日本には4324カ所の養豚場があり、そのうち3000頭以上を飼育する大規模養豚場は841カ所を数える(2021年7月、農林水産省)が、同省によれば「把握する限り、複数階建ては国内では例がありません」と言う。
30年前は高級食材だったのが、今や国民食に
2018年夏、中国は「アフリカ豚熱」の流行に頭を抱えていた。治療薬がないと言われるこの伝染病に打つ手はなく、中国では豚の頭数を大きく減らす事態となった。2019年末、中国自然資源部(日本の農林水産省・環境省・国土交通省などの複合省に相当)は、養豚場の多層化の許可を盛り込んだ「農業用地の管理に関する通知」を出したが、そこから見てとれるのは、前年のアフリカ豚熱の流行で打撃を受けた養豚業に対する一刻も早い回復の必要性だった。
1990年代まで、豚肉は中国沿岸部の大都市で高級食材だったが、わずか20数年で市場は急拡大し、今では中国の食肉生産の7割を占めるに至った。現在続いている上海のロックダウン下においても、市政府は配給品に豚肉の加工品を入れて“幽閉された市民”のご機嫌をとったが、豚肉などの肉類こそが“戦略物資”であり、これを欠いては食欲旺盛な民心を平定することはできない。