高齢者向け著作で「男性ホルモン」の重要性訴える理由
もうひとつ、これらの高齢者向けの本で強調したのは性ホルモン、とくに男性ホルモンの大切さだ。
女性の場合、閉経後、女性ホルモンが減り、肌のみずみずしさなどが衰え、また骨粗しょう症のリスクが増えるから、その低下を防ごうという話は昔からあった。ホルモン補充療法も欧米や韓国と比べるとまだまだだが、それを行う人はいる。
一方、男性の場合はどうか。50代くらいから男性ホルモンの分泌が減るのだが、これに伴って意欲が低下してくることは昔から知られていた。漫画家のはらたいらさんがうつ病と長年誤診され、体調の悪さに苦しめられたものの、その後男性ホルモンの補充で元気になった。はらさんは男性更年期障害の怖さをいろいろな著書で訴えたが、それでも男性ホルモンの補充はとても進んでいるとは言えない。
実は、男性ホルモンというのは性欲や意欲だけのホルモンではない。それが減ると記憶力や判断力も落ちるし、人付き合いもおっくうになる。
女性の場合、閉経後男性ホルモンが増えて元気になるケースもあるし、人付き合いに積極的になるケースもなる。高齢者の団体旅行がたいてい女性なのはそのためだろう。
さらにいうと、男性ホルモンが減ってくると筋肉がつきにくくなるので、フレイル(健康な状態と要介護状態の中間、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態)やロコモ(ロコモティブシンドローム:運動器に障害が起こり、立つ・歩くといった動作が困難となり、寝たきりになる危険性が高くなる症状)と言われる状態になりやすくなる。男性ホルモンを増やすことで要介護高齢者を減らせる可能性は十分高いのだ。
先ごろ、日本の男性ホルモン治療のパイオニアである熊本悦明先生が亡くなった。とても残念だが、自身も90歳を過ぎているのに男性ホルモン補充治療を受け、亡くなる直前まで元気だった。
生前、一度お会いしたことがあるが、その際、「男性ホルモンというからいかがわしいと思われるので『元気ホルモン』と改名すべき」とおっしゃっていた。その通りだと思う。