薬漬けと不要な手術が寿命を縮める

「医者の不養生」という言葉があります。

医師は自分の健康や体には無頓着だという意味です。ウソのような本当の話ですが、医師は患者さんには薬や健診を勧めるのに、自分ではやりたがりません。

おそらく「薬や健診は寿命を大きく延ばすものではない」ということを経験的に知っているからだと思います。それなのに患者さんに対しては「血圧が高い」とか「肝臓の数値が悪い」と言って大量の薬を処方する。「小さなガンが見つかった」と言って手術を勧めるのです。

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その結果、どうなるか? 患者さんは薬漬けになったり、小さなガンと一緒に臓器の一部も切り取られたりするのです。若いときならそれもいいでしょう。しかし高齢者になったのなら、それは逆に、不調や寿命を縮める原因になりかねません。

それは果たして、あなたが望む幸せな晩年なのでしょうか?

病院に行かなくなったら死者数が減った

興味深い事例を二つ紹介しましょう。

まず2020(令和2)年は、新型コロナウイルスの影響で、病院に行く人が大幅に減りました。「コロナに感染したくない」と、少しくらいの不調は我慢したのでしょう。とくに高齢者にはその傾向が見られました。

その結果、意外な現象が起きました。日本人の死亡者数が減ったのです。

つまり「病院に行かないほうが死なない」という皮肉なことが起きたわけです。

もう一つは、北海道夕張市の例です。

夕張市は住民の約半数が高齢者で、全国の市区の中で「高齢化率日本一」と言われた町です。市民にとって病院は命を守る生命線だと思われていました。ところが、2007(平成19)年に夕張市は財政破綻をし、唯一の市立総合病院が閉院してしまったのです。

総合病院は小さな診療所になりました。171床あったベッド数は19床に減らされ、専門医もいなくなりました。

高齢者の多い町で、どうなるのだろう?

市民はもちろん、多くの人が心配しました。結果、どうなったと思いますか?

重病で苦しむ人が増えることはなく、死亡率の悪化も見られなかったのです。日本人の三大死因と言われる「ガン、心臓病、肺炎」で亡くなる人は減り、高齢者一人当たりの医療費も減ったそうです。「わずか19床のベッドで大丈夫か」という心配も杞憂きゆうに終わりました。ベッドは空きが出るほどになったのです。死亡する人の数も、以前とほぼ変わりませんでした。まさにいいこと尽くめなのですが、なぜそうなったのか?

その答えを探すことは、現代の高齢者医療が抱える問題を浮き彫りにし、解決策につながる、と私は考えています。