前頭葉を使わない日本人
【和田】ところが問題があって、日本人というのはなかなか前頭葉を使わないんです。
企業活動もそうですし、政府や自治体の新型コロナ対応などもそうでしたが、日本は前例踏襲型です。そんな環境で長年暮らしていると、ふだんの生活で前頭葉をあまり使わなくなる。そのため、高齢になればなるほど「面白くない老人」が多くなってしまう。
昔は「お年寄りの知恵」というものがありましたよね。いま80代の高齢者の方が20代の頃は、コレラや結核で死ぬ人がたくさんいました。そういう実態を知っていれば、「昔の感染症の怖さはこんなもんじゃなかったよ」「感染症対策はこうすればいいんだ」なんて言ってもよさそうなもの。
ところがいまでは、高齢者のほうがテレビ情報に振り回されて新型コロナウイルス感染症を必要以上に怖がったりしていますから。前頭葉を鍛えていないと意欲が落ちて、脳の老化が早まるだけでなく、危機対応能力とかクリエイティビティに関しても早く落ちてしまうように思えてなりません。
【中野】そうなんですね。SPM(*)の開発者のカール・フリストンが、「自由エネルギー原理」を唱えていますが、これは、脳ができるだけ予測可能性を上げるという原理に従って、認知のみならず行動も変容するという仮説です。
*統計的パラメトリックマッピング。収得された脳機能画像に記録された脳の活動の変化を可視化するための統計的手法。または、その分析を実行するためのソフトウェアの名称。
いわば、能動的推論とでもいうべきものですが、前例に従うというのはある意味、この真逆で、受動的推論といってもいいものかもしれませんね。かえって顕在化しないストレスがたまり、脳機能は衰えそうです。意欲などが落ちるというのは、そのためかもしれません。
AI時代は「頭の使い方」が変わる
【和田】ただ、人間のクリエイティビティが落ちてしまう分は、AI(人工知能)で補うという方法もあるんです。AIとIT(Information Technology)の本質的な違いは何かというと、ITは人間がやり方を覚えないといけません。ところがAIは、人間ができなかったときに、そのニーズをつかんで勝手に動いてくれる代用頭脳だといえます。
【中野】冷蔵庫に足りないものを把握して、勝手に買ってきてくれたり、という技術もまもなく実用化されそうな勢いですしね。
【和田】そうそう。そういうことが可能なのがAIで、これからの「AI時代」は、別に高齢者が機械の使い方を覚えなくても、AIのほうでどんどんやってくれるようになっていくと思います。
自動車の運転がいい例でしょう。あと数年で、完全自動運転が可能な「レベル5」の自動運転が実用化されるともいわれます。それなのに、高齢者が1件大きな自動車事故を起こすと、「高齢者全員から免許を取り上げろ」といった主張が出てきます。はっきり言ってめちゃくちゃだと思います。
一事が万事で、どうも日本人は前頭葉機能がうまく使えない。前頭葉機能というのは、新規のことに対応する能力です。そんな状態だから、AI新時代に対応できない。高齢者だけでなく、日本社会全体が。