「他者は自分たちのようではない」と知るべき

この「許すこと」は、非常に重要なポイントかもしれません。ささやかな社会的無礼を本当に許して忘れること、です。日本はいまだにかなり同質性の高い社会ですから、私のような外国人が日本に入ってくれば、この人はわかっていないのだから、と皆さんが許さなければならないことがたくさんあるのは十分に承知しています。

一緒に食事をしているとき、私が食事中にしている間違いの中から皆さんが注意すべきものを選んでいるのは知っています。これは大変な心の修行にちがいありません――これは見なかったことにしておこう、この人はドイツ人でわかってないのだからと。私を受け入れる際に心の中でいろいろなことが起きているはずです。まさにこのような類いの実践です。

マルクス・ガブリエル著、大野和基インタビュー・編、月谷真紀訳『わかりあえない他者と生きる』(PHP新書)

私たちの社会的空間の中にこういうものがもっと必要だと思うのです。次のような言い方ができるのではないでしょうか。許しは日々行う類いの実践であるべきだ。とても難しいことですが、実はこれは他者との出会いの始まりなのです。

他者とは、相手が自分と同じでなくても許すことをあなたが常に学ばなければならない、そんな存在です。それでいいのです。私たちが他者に「こうであってほしい」と望むのはまったくかまわないと私は考えています。それが私たち人間ですから。私たちは自分のしていることがいいと思っている、だから当然、他の人にも自分たちのようであってほしいと望みます。しかし加えて、他者が自分たちのようではないことを知って、それを許すレイヤー(層)が必要なのです。

それが誠実な態度です。誠実な態度とは自分の勝手な願望を受け入れたうえで、許しでもって他者を承認することです。ヘーゲルも『精神現象学』でまさに同じことを言っています。ヘーゲルが述べた承認を求める戦いの解決策は、ドイツ語でVersöhnungとVergebungと言いますが、和解と許しです。

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