パンツに次いで着けている時間が長いアイテム

JINSが、初代ジンズ ミームの開発に着手したのは、2011年ごろ。始まりは、「脳トレ」の提唱者としても知られる東北大学・加齢医学研究所所長の川島隆太教授に、「たとえば、“頭がよくなるメガネ”などを開発できないか?」と相談した際に、紹介された「眼電位」という技術だったといいます。

「川島先生に、『メガネはパンツに次いで、着けている時間が長いアイテム』であり、そのうえ『パンツと違って、毎日のように同じモノを装着するもの』だと指摘をいただいたことも、大きなヒントになりました」と話すのは、同・JINS MEME(ジンズ ミーム)事業部で、初代モデルから開発にあたる一戸晋さん。

JINS MEME事業部 一戸 晋さん。初代モデルから開発にあたる。(写真提供=JINS)

それまでの「眼電位」測定技術は、目の周り4点に“電極”を付ける必要があり、計測中の人の行動は制限されていました。ですが、一戸さんは「自分たちが開発するメガネで収集、分析(測定)するデータは、人々の“日常”に寄り添ったものであるべきだ」と考えたとのこと。

そこで眼電位センサーを小型化し、自然な形でメガネに取り入れれば「日常的な目の動きを計測でき、人々の日常生活を豊かにできるのではないか」と発想したといいます。

そもそも、JINSには「Magnify Life(アイウエアを通じて人々の生活を豊かにする)」との企業理念があり、単に「技術ありき」の開発は行わない。社会課題の解決や豊かな未来の実現に繋がるなど、「なんのための開発か」が大きなテーマだった、とのこと。

過去の好例の一つが、「JINS PC(現JINS SCREEN)」(2011年9月発売)でした。ディスプレーから発せられる「ブルーライト」をカットするレンズは、眼や体への負担軽減を可能にする。まさに社会課題の解決に貢献した大ヒット商品と言えるでしょう。

メガネで居眠り運転を防ぐことができるのではないか

一戸さんたちが「なんのために」に頭を悩ませていた、2012年4月、ある衝撃的な事故が起こります。

群馬県の関越自動車道で、ツアーバスが防音壁に衝突し、乗客7人が死亡した交通事故。原因は、運転手の「居眠り運転」だったのではないかと報道されました。

「この事故を知り、群馬出身でもある弊社代表の田中(仁)は、『もしかすると、いま開発中の(眼電位センサー搭載の)メガネで、居眠り運転を防ぐことができるのでは?』と考えたようです」と一戸さん。

そこから、眼電位センサーを通じてリアルタイムで「眠気」を測るアルゴリズムの開発もスタート。専用のスマホアプリとの連携(Bluetooth)によって居眠りの可能性をアラートで知らせるという、画期的なサービス開発の幕開けでした。