必要なのは「新しいもの」ではなく「受け入れられるもの」

当初、藤井が考えたのは、手術用キャップ、マスクの機能を併せ持ったフェイスシールドだった。

「三つの機能を併せ持てば、すごい。でも途中で思い直したんです。ぼくたちがやらなければならないのは、新しいものを作ってすごいと思われることではない。

今すぐに受け入れられるもの、すぐに行き届くもの。既存の物と形状が似ているのだけれど、それらよりも性能が優れているもの」

医師として藤井が出した条件がいくつかあった。まずは、N95マスクと干渉しないこと、そしてマスクをつけた上で口や鼻からの呼気、吸気で曇りにくいこと。頭を締め付けないこと。

「普通に考えれば、(輪ゴムで顔と固定する)お面のようなものを想像しますよね。でもゴムのようなものでずっと締め続けると、頭が痛くなるんです」

また現場で簡単に組み立てられることも重要だった。短期間で製作するには、作業工程を極力減らす必要がある。そのため、ゴムのほか、ホチキスなどを使用しないことも条件に加わった。

3日間で100個以上の試作品を経て、できあがったのが紙製フェイスシールド「ORIGAMI」である。

企画から販売まで2週間、3万個を出荷する

「鳥取(大学発)だから、トリなんとかっていう名前を考えたんですけれど、“紙”は入れたい。そして商品名で組み立てるだけで使用できることが分かるようにしたかった。それでORIGAMIになりました」

撮影=中村 治
倉吉市の白壁土蔵群にて。左から、鳥取大学医学部附属病院新規医療研究推進センター助教の藤井政至氏、サンパック会長の森和美氏、社長の森貴洋氏。

生産体制に入るとまた問題が生じた。森は「問題だらけ」でしたと頭を振る。

「うちは小さな会社ですし、フィルムを自分のところで貼れない。仲間内で分担してもらいました。切り抜いた部分にフィルムを貼ると、穴が大きすぎたのか、フィルムと紙が引っ張り合って、機械に入れるとうねってしまった。

今の機械はすべて自動調整。だから設定を解除して手動でやるしかない。また、最終工程の“抜き”の工程でも紙が機械に入らなかった。量産しようとするとまた別の問題が出てくる」

生産開始初日は、数百枚を作るのが精一杯だった。

医療製品である以上、品質の担保は大前提である。ORGIAMIのためにサンパック内に検査室を作った。

「虫などが混入しているとかいうのは論外として、傷が入っているものは出荷できません。一枚一枚、きちんと検査した上で梱包して出荷しました」

あのときは、とてもじゃないけれど(報酬を)十倍もらっても合わないなと思ったと、森は笑う。それでも踏ん張ったのは、Zoom会議で見た、寺岡の辛そうな表情が頭にちらついたからだ。

税別、一個120円のORIGAMIは4月25日に3万個を出荷。企画から販売まで異例の速さである。