※本稿は、鳥取大学医学部附属病院パンフレット『トリシル』の一部を再編集したものです。
「3Dプリンターで製作してほしい」一通のLINEからすべて始まった
2020年4月7日、マスク姿の安倍晋三内閣総理大臣がテレビに大写しとなった。東京都など7都道府県を対象に「緊急事態宣言」が発令されたのだ。
この日、国内の新型コロナウイルス感染者は5000人、死者が100人を超えている。この時点で鳥取県内の感染者は出ていない。それでもひたひたと感染爆発の不気味な足音が聞こえていた。
その3日後、4月10日夕方のことだ。
鳥取大学医学部附属病院新規医療研究推進センター助教の藤井政至のスマートフォンに武蔵野赤十字病院救命救急センターの寺岡麻梨からLINEが入った。
武蔵野赤十字病院救命救急センターは高度な感染症治療を担当する「第二種感染症指定医療機関」として、早くから患者を受け入れていた。寺岡によると、マスクやフェイスシールドが全く足りないというのだ。
「(医療従事者は)空気感染を防ぐためにN95マスクを使用していました。ただこのN95マスクが供給不足になっていた。本来はディスポ(使い捨て)であるはずのN95マスクを繰り返し使うために、飛沫で汚染されないようサージカルマスクをして重ねていた」
空気感染を起こす病原菌は、0.5μm以下の飛沫核として空気中を浮遊する。N95マスクは、0.3μmの微粒子を95%以上捕集。このN95マスクを保護するため通常のマスクを着用していたのだ。
さらに飛沫から(眼などの)粘膜暴露を防ぐためにフェイスシールドを着用していた。このフェイスシールドも足りない。緊急措置として(文房具の)クリアファイルをフェイスシールドに使いたい。そのためには“つる”が必要である。
“つる”のデータがインターネット上にある。そのデータを使って3Dプリンターで製作してくれないかというのだ。