鳥取大学医学部附属病院の救急救命センターは山陰一帯の救急医療の最後の砦だ。過去には救急専門医の一斉辞職があり崩壊しかけたこともあったが、いまでは日本有数の拠点として機能している。立て直しを主導した上田敬博教授は「最初は、『僕らはどうせ地方だから』と内向きになっているスタッフもいた」と振り返る――。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院パンフレット『トリシル』の一部を再編集したものです。

鳥取県ドクターヘリ「おしどり」が発着するヘリポート。
撮影=中村 治
鳥取県ドクターヘリ「おしどり」が発着するヘリポート。

「仲間を増やして大きな声を」救急医療崩壊の危機を経て

とりだい病院救命救急センターに隣接したエレベーターで屋上まで昇ると、中海を臨む見晴らしのいい場所に出る。ドクターヘリ「おしどり」が発着するヘリポートだ。

ヘリは夜間、米子空港に格納されており、毎朝8時過ぎにはとりだい病院に到着して出動要請を待つ。ヘリポートには、陰をつくってくれる建造物がない。2021年夏、待機中のヘリは強い日差しを浴びて白く光っていた。

傍らでは、救命救急センターの木村隆誉助教が鳥大医学部医学科の学生を相手にドクターヘリの運用について説明していた。卒業後の進路に救急科を選んでもらうためのリクルート活動の一環である。

木村はドクターヘリの当番で、白衣ではなくフライトスーツ姿だ。フライトスーツは夏服だが、安全性確保のため長袖で厚みがあり、額には汗が浮かんでいる。それを気にする素振りも見せず、木村は熱い口調で説明を続けていた。

なぜ学生に熱心に語りかけるのか。木村は思いをこう明かす。

「仲間を増やしたいんです。小さな声で叫んでも届かないことも、大きな声なら届くことがある。もっと大きな声を出すために、医局員やスタッフを増やしたい」

人員にこだわるのには理由がある。とりだい病院救命救急センターは、医師の大量退職を経験している。2009年3月末、センター長を含めた救急専門医4人全員が一斉退職。地域を支える救急医療が崩壊する危機に直面した。

鳥大医学部の出身で、当時、東京の病院に勤める若手医師だった木村も、このニュースには強い衝撃を受けた。