弱いエリアがとことん弱くなるだけ
しかしもしそうなった場合でも「大手町・丸の内から企業が逃げ出す!」みたいな極端な話にはならないのです。仮に、オフィスの床面積が全体として減少に向かう場合は「駅から遠い」「設備が古い」といった、弱いところから空室率が増加、賃料が低下していく流れとなるはずです。
例えば大手町や丸の内、新宿の高層ビル群といったグレードの高いオフィスビルが、企業のオフィス床減少の動きによって空室になるとします。するとより駅から遠いとか、都心から遠い、設備グレードが劣るオフィスから、新規入居者がやってくるわけです。もちろん賃料の交渉は入るでしょう。つまり、空室が増えるといったフェーズの中では、色んな意味で弱いところがとことん弱くなるといった現象が起きるわけです。
2021年4~5月の緊急事態宣言以降、東京・渋谷区のオフィス空室率が如実に上昇したことが話題を集め、これをもってやはり不動産市場暴落かといった論調が見られましたが、これも大げさな話。そもそも渋谷区のオフィス空室率は1%程度でほとんど空きがなく、入りたくても入れないといった状況がずっと続いていました。それで仕方なく、おとなりの恵比寿や目黒・五反田といった方面へ触手を伸ばし、入居していたのです。
コロナ禍が市場を冷やすには程遠い
渋谷はかつて「ビットバレー」と呼ばれIT系のベンチャー企業が多く、業態柄リモートワークを実施しやすいこともあって、一時的に空室率が6%程度になりましたが、一般的に空室率は5%前後が適正とされています。ほどほどに空きがないと移動できないためです。一時は上昇を続けた渋谷区のオフィス空室率も、現在では落ち着いています。ここでも、強いところはとことん強く、弱いところがとことん弱くなる、といった法則が働いているのです。
パーソル総合研究所が2021年7~8月、全国の2万人を対象に行った調査では、全国の正社員のテレワーク実施率は27.5%と頭打ち。日本生産性本部が2021年7月に実施した調査でのリモートワークの実施状況は20.4%。これは2020年5月の32%から大幅に減少しています。いずれにしても、コロナ禍が不動産市場全般に冷水を浴びせる状況には程遠いようです。