理念通りに突き進めば大停電は避けられない

さらに大きな障害となると思われるのが各種NGOだろう。これまでFridays for Futureのような若者の団体、あるいは、極端に過激な左翼環境団体などともガッチリとスクラムを組んできたのが緑の党だ。「われわれの惑星」を守るため、発電は再エネ一本化、ガソリン車・ディーゼル車は駆逐し、肉には税金をかけて高くし、飛行機も豪華船も制限せよ等々、彼らの主張は多岐にわたった。

なのに、現実問題として、緑の党は、公約だったアウトバーンの全国一律制限速度130kmさえ、新政府の施政方針に入れることができなかった。そればかりか、今後、緑の党がノルドストリーム2のために尽力したり、再エネ増強に失敗したりすれば、突き上げの激しさは想像に余りある。失望した支持者はあっという間に離れるだろう。

かといって、有言実行で理念通りに突き進めば社民党、自民党との亀裂が深まり、連立政府は壊れる。ましてやブラックアウトなど引き起こしたら、緑の党は二度と復活できない。今のハーベック氏の状況を一番的確に表すとすれば、それは「袋小路」という言葉ではないか。

1月18、29日に開かれた緑の党の党大会では、ハーベック氏とベアボック氏が党員に向かって、「社会生活でも、家庭でも、常に妥協が必要」と、朗らかな調子で、しかし、実は必死で防御線を張っていたのが印象的だった。何となく小学生相手の話のようで、かなり白けた。

写真=iStock.com/ElcovaLana
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政権発足から2カ月でもう「波乱万丈」

さて、メディアはどうしているかというと、新政府の打ち上げる計画はどれもこれも非現実的だと分かっているはずだが、当初、「困難だが、努力すればできる」というようなトーンでの報道だった。主要メディアは、常に緑の党に甘い。しかし、さすがに最近では、「ハーベックのエネルギー転換の打ち上げ花火」とか「無限の自信に満ちた大臣」などと揶揄やゆするようになってきた(どちらもシュピーゲル誌)。

ドイツの今冬の気候は、今のところそれほど厳しくなく、その上、ウクライナの陸上パイプラインでのロシアガスの輸入が増量されているため、ブラックアウトは回避されている。ただ、ドイツが寒い国であることは変わらず、暖房費の値上げは国民にとって強烈な打撃だし、ガソリン価格もこれまでにない高止まりとなっている。

緑の党が与党になれば、野党で勇ましく吠えていた時とは様子が違うのは当然だが、2月3日のアンケート(Institut Wahlkreisprognoseによる)では、社民党はショルツ首相の人気までが劇的に下降し、支持率でCDUに抜かされる事態になっている。新政権が立ってからまだ2カ月も経たないというのに、すでに波瀾万丈のドイツである。

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