「自然を守るために風車が建てられない」という皮肉
ちなみに、風力はそこまで極端な発電量の凹凸はないため、2011年、ドイツが脱原発を決めた時、その代替候補と目された。とはいえ、設備利用率はオンショア(陸上風力)で19%にすぎず(2021年)、つまり、国土の2%に本当に風車を立てたとしても、それだけではドイツの必要とする電力には足りない。
これまで緑の党は、ドイツの電気は再エネで100%まかなえると主張していたが、これは不可能だ。再エネはいくら増やしても、採算の取れる蓄電技術がない限り、原発や石炭火力を代替することはできない。そして、採算の取れる蓄電技術がまもなくできる予定はまだない。
しかも、ここ数年、風車の新設にはブレーキがかかっている。昨年は全国で460基が新設されただけで、そのほとんどが、風況の良い北部の4州と、あとは西部のノートライン=ヴェストファレン州に偏っていた。その他の地域では、バーデン=ヴュルテンベルク州の28基、バイエルン州の8基など。ザクセン州はたったの1基だ。
そこで今、ハーベック氏が全国行脚に乗り出し、各州の首相に発破をかけているが、ドイツは元々州政府の力が強く、州の首相は州民の利益を優先するから、ハーベック氏の思い通りには進まない。
しかも、緑の党のハーベック氏にとって皮肉なのは、住民が風車の建設に反対し始めたのは、景観の乱れ、健康被害などのほか、森が潰されるとか、膨大な数の渡り鳥が犠牲になるという、自然保護の理由によるものが多い。これらは、本来なら緑の党が党の看板にして取り組んできたテーマである。
矛盾だらけの政策は「世界で唯一の厄災」
しかし、与党になった今、そんなことも言っていられず、今後は、「お役所仕事を簡便化し、規制も緩和する」方針という。言い換えれば、これは、住民や自然保護団体の反対訴訟などを跳ね飛ばすということにほかならない。ここに緑の党の大いなるジレンマがある。
それでもドイツ政府は昨年の大晦日に、快調に動いていた6基の原発のうちの3基を予定通り止めた。こんな危うい状況で、なぜ、わざわざ、しかもCO2フリーの原発を止めたのかという疑問が当然、湧くが、そんな理屈が通らないのがドイツのエネルギー政策の醍醐味(!)である。
すでに19年1月、ウォール・ストリート・ジャーナルはその状況を、「世界で一番馬鹿げたエネルギー政策」という辛辣なタイトルで報じていたし、今ではドイツ紙の論調も、「ドイツのエネルギー転換政策は世界で唯一の厄災」という意見で統一され始めた。そして、ドイツの一番の問題は、その矛盾に満ちた政策を、現政権が今も錦の御旗として掲げ続けていることだ。