「ノルドストリーム2」ならブラックアウトを防げるが…
いずれにせよ、すべてはハーベック氏の緑の党が主張してきた通りに進んでいる。今年の終わり、残る最後の3基が止まれば、ついにドイツは原発ゼロの国になる。やはり彼らが熱心に進めてきた脱石炭も着々と進んでおり、昨年暮れには11基が止まったし、これからも徐々に止まる。未来のない石炭産業への投資は先細り、かつて栄えた炭鉱の町では、その後の産業構造改革をどのように進めるかということが最大の課題として立ち塞がっている。
ただ、理想の未来の模索はともかく、現実問題としては、前述の通り、電気が足りなくなった。先進産業国であるドイツが、電力の安定供給などという、本来ならば途上国が遭遇する問題に直面しているのだ。しかも、すべてはドイツのホームメイドの問題である。
そこで、ブラックアウトを防ぐために、重要性が最高度まで高まったのが、ロシアとドイツを海底で結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」だ。これが稼働すれば、ドイツのエネルギーの逼迫は解消される。しかし、すでに工事は完成しているというのに、米国やEUが真っ向から反対しており、稼働にこぎつけていない。
そうでなくてもドイツのロシア依存は異常に高く、ガス需要のほぼ半分がロシア産という状態だ。これ以上増やしては、ヨーロッパのエネルギー安全保障に関わるというのが主な反対の理由で、この警告は決して間違ってはいない。
自らの理念の間で板挟みになっている
緑の党はこれまで、ノルドストリーム2はCO2を増やすとして、断固反対してきた。しかし今や与党の一員としては、そうも言ってはいられない。ドイツ政府はもちろん、ノルドストリーム2が喉から手が出るほど欲しい。
そこで仕方なく、ガスは水素が確立するまでのつなぎであるとか、ノルドストリーム2はプーチン大統領を肥え太らせることになるので、ガスの輸入にはウクライナ経由の従来の陸上パイプラインを使うべきだとか、いろいろな言い訳をしているが、どれもこれも論理破綻してしまう。緑の党は今や完全に、自らの理念の間で板挟みになっている。
ただ、緑の党が一番恐れているのは、実は自分たちの党員と支持者だ。緑の党は昨秋の総選挙で、「気候対策」を最大のテーマとして戦った。今すぐにCO2削減に取りかからなければ、われわれの地球は取り返しのつかないことになる。だからこそ「石炭火力発電の停止は38年ではなく30年に」と主張し、正しい対策を進められるのは緑の党しかないと叫んだ。そして、それが党員を高揚させ、多くの支持者を惹きつけた。
その支持者のおかげで得票率を2倍に増やし、今ようやく念願かなって与党に入ったというのに、その途端、「やっぱりノルドストリーム2は必要だ」などと言えば、どうなるのか?