日本経済再生のカギは労働市場の柔軟性

技術革新や経済のグリーン化が今後、ますます進むと、経済の構造が大きく変わり、新しい産業が生まれると同時に、既存の産業が衰退する可能性があります。そこで、鍵となるのは、労働市場の柔軟性です。

労働市場が硬直的だと、労働の再配分がスムーズに行われず、結果として、経済成長の足枷となります。今後、世界のトレンドが大きく変わる中、日本経済が再生するかどうかは、労働市場のあり方に左右されるといっても過言ではありません。

ここで、日本の労働市場がどの程度、柔軟なのか、言い換えれば、どのくらい流動的なのかを確認しておきましょう。労働市場の流動性の度合いを測るものとしてよく使用されるのが転職率です。転職者とは「就業者のうち前職のあるもので、過去1年間に離職を経験したもの」で、転職者比率とは就業者数に占める転職者数の割合です。

転職者数は、2000年代後半の世界同時不況時に大きく減少しましたが、その後は再び上昇傾向にあります。新型コロナ感染流行前の2019年をみると、転職者数は351万人と過去最高となっています。

他方、転職者比率は多少の変動はあるもののおおむね横ばいで、その平均は4.9%となっています。また、男性よりも女性のほうが転職者比率は高く、その平均は男性4.2%に対して、女性6.0%となっています。

最近、「転職は当たり前」ということを耳にする機会が増えました。実際、転職者は過去よりも増えています。しかし、転職者比率に大きな上昇は見られず、必ずしも労働市場が流動的になっているとは言えません。

採用、解雇の規制が強すぎる

労働市場の流動性は、雇用制度からも大きく影響を受けます。そこで、次に、制度的な側面から日本の労働市場の流動性を見ておきましょう。カナダのシンクタンクであるフレーザー研究所(Fraser Institute)が毎年発表するレポート「Economic Freedom of the World」の中に、労働市場の柔軟性を表す指標があります。この指標は最低賃金、採用および解雇に関する規制など6つの政策分野に基づき、労働市場の柔軟性を0~10に数値化したもので、その数字が大きいほど、労働市場が柔軟であることを示しています。

宮本弘曉『101のデータで読む日本の未来』(PHP新書)

G7におけるこの指標を見てみると、2018年の日本の指数は8.17でG7ではアメリカ、イギリスに次いで第3位となっており、これを見る限り、日本の労働市場の柔軟性は国際的に決して低くはありません。また、2010年の数字と比較すると、どの国も数字があがっており、労働市場の柔軟性が高まっていることがわかります。

しかしながら、総合指数を構成する項目を個別にみると状況は異なります。採用や解雇に関する規制に注目すると、日本の数字は4.17とG7の中ではイタリアの3.33に次いで低くなります。最も数字が高いのはアメリカの7.18で、日本はその6割弱の水準となっています。他方、賃金交渉のしやすさに目をむけると、日本の数字7.92がG7で一番高くなります。ちなみに、アメリカの数字は7.79で、G7で第2位となっています。

ここからわかることは、日本は、賃金交渉については他国よりも柔軟であるものの、採用や解雇についてはその規制が強く、決して柔軟だとは言えないということです。

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