視神経は一時間に一本ずつ死んでいる

イラスト=矢倉麻祐子

中高年世代の失明原因の第一位は緑内障である。

緑内障は頭痛・吐き気を伴い、重症になると失明する。原因は“眼圧”の上昇による視機能の異常とされてきた。眼圧とは、眼球が球形を維持するための一定の内圧を意味する。主に眼球内の水様液の増減によって変化する。

とりだい病院、眼科教授の井上幸次は、近年、この“常識”が見直されているという。

「日本では眼圧の高くない患者がすごく多い。緑内障は、視神経が痛んでくる病気なんです。圧が高くないのに緑内障になる人が多いということは、日本人は視神経が弱いという見方もできます」

視神経は一時間に一本ずつ死んでいるという。

「それが老化。視神経が減っていくことは止められない。ただ、速度が早い人と遅い人がいます。早い人が緑内障になりやすい。残念ながら緑内障を予防する方法はない。しかし、進行の予防はできるので、早く発見することが大事です。おかしいと思ったらすぐに眼科に行ってほしい」

失明原因の第二位が網膜色素変性症、第三位に糖尿病網膜症、第四位の加齢黄斑変性が続く。

この中で第三位の糖尿病網膜症は、内科での糖尿病治療成績が上がったこと、啓発の効果もあり早期受診により患者数は減っている。第二位の網膜色素変性症。第四位の加齢黄斑変性の原因は未だ解明されていない。

この十年、眼科の世界は加齢黄斑変性という疾患を中心に回っていると言うのは、とりだい病院眼科魚谷竜助教である。

加齢黄斑変性とは、黄斑という網膜の中心部にあって、光を感じる神経が集まっている組織が年齢とともに傷んでしまうことによって起こる。初期の症状としては、物が歪んで見える「変視症」や「歪視」がある。

「網膜というのは、映画のスクリーンのようなもの。そのスクリーンが歪んでしまうと自ずと映る像も歪んで見えるんです」

線が歪んでないか、暗くないかをチェック

『カニジル 9杯目』より

加齢黄斑変性は「滲出型」と「萎縮型」に2つに分類される。日本人に多いのは滲出型だ。これは、網膜と脈絡膜の境にある色素上皮細胞が傷害され、新陳代謝がうまくいかず、VEGF(血管内増殖因子)というサインが出される。そのサインによって新生血管が増殖。

この新生血管はもろく、破れやすいため、出血したり、網膜に溜まった老廃物が漏れ出しやすい。これが原因で黄斑にダメージを与え、視力低下や前述の「変視症」「歪視」という症状が現れる。

黄斑が完全に傷んでしまうと、中心暗点という視野の中心部分が暗くなる症状に進む。メガネの真ん中を黒く塗られたような状態だ。

この加齢黄斑変性は、欧米では失明原因の第一位である。日本でも増加傾向にあるのは、生活の欧米化に起因しているのではないかと考えられている。現在、日本では50歳以上の約1.2%が罹患している。

加齢黄斑変性の治療法について、魚谷は「原因もはっきりわかっていない病気なので、現在のところ、根本的な完治がのぞめる治療はないんです」と話す。

完治は難しいが、病気の進行を遅らせ、止める治療法が2000年代に入っていくつか出てきた。その1つが「光線力学療法」だ。

光に反応する薬剤を点滴で体内に入れ、網膜下の新生血管に留まらせる。そこに弱いレーザーを照射して薬剤と反応させることで新生血管を潰す。薬剤が体内にある間は光過敏症を引き起こすので、日光や強い光が当たらないよう個室での入院が必要になる。

2つ目は、新生血管を沈静化させる薬を硝子体に直接注射する抗VEGF療法だ。外来で治療が可能で入院の必要がない。効果も高いため、現在のところこの治療法が一般的だ。

ただし、薬剤が高価であることが難点だ。定期的に注射を打たなければならないので患者さんの負担は大きい。

加齢黄斑変性を早期に発見するには、アムスラチャートが有効だ。片目を閉じた状態でマス目中心の黒い点を見つめる。加齢黄斑変性の疑いがあれば、線が歪んで見えたり、暗く見えたりする。