いま子どもの近視の急増が世界的に問題になっている。『スマホ失明』(かんき出版)を上梓した眼科医の川本晃司さんは「スマホなどのデジタルデバイスによる『近業時間の増加』の影響は無視できない。スマホの見過ぎは近視を悪化させるだけでなく、眼球を変形させ、社会的失明に陥らせるリスクがあることを知ってほしい」という。川本さんへのインタビューをお届けする――。

世界的に若年層の近視が急速に進んでいる

――先生のクリニックを訪れる近視の患者さんが急激に増えたそうですね。

患者さんの数というよりは、特に若い方の近視が「あり得ないスピード」で進行していることを体感しています。この傾向は、やはり、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症が流行しはじめてからの3年ほどで特に顕著ですね。

学校健診などで初めて私の眼科を受診するお子さんの近視の進行度合が、以前なら「屈折度数(ジオプター:D=視力を矯正するときに必要なレンズの矯正強度)」で「マイナス1D~2D」くらいだったものが、いきなり「マイナス4D~6D以上」といった中等度近視、または強度近視である症例が増えているんです。保護者の方もそこで初めてお子さんの視力が悪いことを知って青ざめるといった感じです。

――これは日本特有の傾向なのでしょうか?

いえ、若年層の近視の有病率は世界的に増加傾向にはありましたが、コロナ禍のここ3年のスピードはこれまでにないもので、世界的にかなり危機感が高まっています。

WHO(世界保健機関)は近視人口の急激な増え方に対して、「深刻な公衆衛生上の懸念がある」と警告しています。

また、オーストラリアのブライアン・ホールデン視覚研究所の、「2050年の近視人口は約50億人になり、さらに世界人口の約1割が強度近視となる」という報告もあります。

――その要因はどこにあるのでしょうか。

はい、遺伝的要因はもちろんのこと、本を読む、ゲームをするなどの影響もあると思いますが、コロナ禍による自粛生活で加速した、スマホなどのデジタルデバイスによる「近業時間の増加」の影響は無視できないでしょう。

2021年に中国から上がってきた、学童の「Quarantine Myopia(隔離近視)」に関する研究報告によると、7歳から12歳の子どもたちの屋外での活動が減り、デジタルデバイスでのスクリーンタイムが増加したことで、近視が著しく進行しているとあります。「Quarantine Myopia」とは眼科医でも聞きなれない言葉ですが、要するに新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴う巣ごもり生活がきっかけとなって、進行した近視のことです。