――軸性近視になる前に対策を打たなければいけませんね。

そうですね。実は、日本の近視予防法は80年ほど前から変わっていません。

大きく言うと、「目を休めること」「近業を避けること」「戸外で過ごすこと」の3つです。

台湾や中国での研究からは、「1日1時間以上のスクリーンタイムで近視が進行する」「スクリーンタイムが長くなればなるほど、近視の進行は深刻になる」ということがわかっています。また、戸外活動で「バイオレットライト(ブルーライトと紫外線との間にある光)」を瞳に通過させることで、近視抑制に効果があることもわかってきました。

――そうなのですね。ですが、特に子どもは、自分の意志でスマホの使用を抑制するのが難しいですよね。

そうですね、個人の努力だけではなかなか難しい側面もあるでしょう。ですので、スマホ使用を制限するためのアプリを入れるなどツールを利用したり、意識的に外に連れ出したりなど、親や周りの大人たちが環境をデザインしてあげる必要があると思います。

これには、行動経済学のフレームワークが有効だと思います。拙著『スマホ失明』では、こうした視点から、仕組みをデザインする方法を提案しています。

川本 晃司『スマホ失明』(かんき出版)
川本 晃司『スマホ失明』(かんき出版)

また、社会的な対策が進むことも望んでいます。たとえば、タバコのように、スマホの販売業者はスマホのパッケージに「スマホはあなたやあなたの家族を強度近視へと導く可能性があり、使用にあたっては充分な注意が必要です」といった警告文をつけるというような制度的な縛りを設けることも有効な手段のひとつだと思います。

子どもたちの近視の度合がここまで深刻になったのは、たぶん人類史上初めてだと思います。眼科医の中にも「スマホくらいで失明はしないよ」と思っている方もいるかもしれませんが、それは昨日までの常識であって、未来の常識は変わっている可能性が高いです。この現状を、眼科医として見過ごすわけにはいかないと思っています。

いろいろな方法をご提案しましたが、そもそも小・中学生の子どもたちにスマホを持たせる必要性が本当にあるのか、いま一度そこに立ち返ってみる必要もあるのではないでしょうか。

(聞き手・構成=山岸美夕紀)
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