――日本ではあまり知られていないように感じます。

そうですね、やはりもともと日本は、現時点で成人の約半数が近視と言われる「近視大国」ですし、メガネをかけていることに対してネガティブなイメージが少ないため、これまであまりクローズアップされてこなかったのかもしれません。

また、日本では、確固たるデータを基にしたエビデンスがなければ情報を発信しない、といった風潮があり、行政も確証がなければ動かないという腰の重さがあるように思います。対して、中国などは、自国で収集したデータを基に政策を決める側面があって、必ずしも高いエビデンスでなくても動くこともあるようです。これはコロナ対策の違いを見ても明らかですね。

――このままでいいのでしょうか。

スマホをどれくらいの時間使うとどれくらい近視が進むかといった調査にはかなりの年月やコスト、労力がかかるため、いつ完璧なデータが出そろうかは分かりません。

ですが、それを待っていたら時すでに遅し、ということにもなりかねませんし、こういった危険性については、ある程度、見切り発車で政策を進めていくことも必要なのではないかと思います。

今、警鐘を鳴らしておいて、もしも後に「やっぱり違ったじゃないか」となったとしてもそれはそれでいいと思いますし、先は見えないにしても、対策を打っておいて損はないのではないかと思うんです。

ただ、日本でも少しずつではありますが、対策が進みつつあることを感じています。たとえば、2020年度に文部科学省が行った「児童生徒の近視実態調査」では、子どもの「眼軸長」の大規模調査が行われています。

スマホを見続けると眼球が伸びる

――眼軸長とは眼球自体の長さですよね。眼球自体が変形するということを知り、驚きました。

みなさん結構、驚かれるんですが、長時間スマホを見続けるなどの近業を続けることで、「角膜」から「網膜(黄斑部)」までの長さである「眼軸長」が伸びてしまうことがあります。このように、眼軸長が伸びてしまった結果として起こる近視を「軸性近視」と言い、「スマホ失明」を引き起こすのが、この軸性近視です。軸性近視になってしまうと、近視がない状態に戻すことはできません。

【図表】眼軸長と軸性近視
図版=『スマホ失明

最も程度がひどい強度近視になる頃には、ラグビーボールのような形状になり、眼球後方の一部がポコッと突起状に飛び出す「後部ぶどう腫」や、引っ張られた網膜が裂けてしまう「網膜分離症」などへとつながる危険性もあります。

――怖いですね。今までは「視力」がほぼ唯一の基準でしたが、これからは眼軸長にも注目するべきということですね。

はい。たとえば、裸眼視力が0.1の方が2人いるとして、同じ眼軸長なのかどうかというと実は違うんですね。失明に至る近視かどうかを測る物差しの精度が一番高いのが眼軸長といえるでしょう。

ヒトの眼軸長は、6歳くらいで22mm、成人で24mm前後になるのが正常な発達ですが、先ほどお話しした2020年度に文部科学省が行った「児童生徒の近視実態調査」では、小学6年生で成人の平均である24mm前後にほぼ達していることがわかりました。中学3年生では、男子が24.61mm、女子が24.18mm。これは、つまり軸性近視が低年齢化しているということです。