「のどちんこの違和感は心筋梗塞が原因」小さな異変見抜き命救う

私たちは風邪をひいたら内科を受診するし、指を骨折したら整形外科に足を運ぶ。けれど患者自身が痛みなどの原因を探れず、受診科に迷うこともあるだろう。ましてや救急車で運ばれるようなケースではなおさらだ。

「うちは救急科と総合診療科がくっついている、全国的にもめずらしい病院なんです。腰が痛いという高齢者から、山で遭難した人の診察まで、患者さんはすべて受け入れます。まれに徒歩で救急に来る患者さんもいますが、そういう人の中にも1000人に2~7人という割合で翌日に命を落としてしまうような超重症の患者さんがいるのです。そうした人を見逃さないのが私たちの使命です」

撮影=榊 水麗
(写真左)総合診療・総合内科センター(GGG)の運営を担当している救急部の石本貴美さんと。/(写真右)救急科の診察室。初期診療に使うエコー、CT室、グラム染色室などの設備がそろっている。

東京などの大都市でよく見られる救急患者のたらい回しは、当直の医師が専門外であることも原因の一つだという。患者の症状が明らかに当直医師の専門外だった場合、たとえ受け入れても的確な診断を下せないからだ。

「あらゆる可能性を考え、目の前の患者を広く浅く診られる医師が求められるのです。たとえば嘔吐おうとという症状を一つとっても、消化器系の病気かもしれないし、心筋梗塞かもしれない。妊娠を自覚していない人のつわり、あるいは脳や耳の病気だということもあります」

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いわゆる“のどちんこ”に違和感を覚えて病院にやってきた高齢の男性を診察した際、林さんはその原因が心筋梗塞であることを突き止め、事なきを得たこともあった。

とは言え、すべての医師が総合診療医である必要はない。高度な診断や治療を行う専門医の存在は不可欠だと念を押す。

「けれど大学病院の専門医を必要とするケースは、おそらく1000人に1人くらい。また、少子高齢化が進み、多くの患者が高血圧や糖尿病など複数の病気をかかえています。そうした中で、自分の専門しか診られない医師ばかりになってしまうと、いざという時に対応しきれなくなってしまいます。特に高齢者は一人の人間として命を預けられる総合医に継続的に診てもらうほうが断然いい。だからGGGでは福井大の医学生に限らず、全国から総合診療医を志す学生や総合的な診療について学びたい若手医師も受け入れ、現在はセミナーの開催や医療施設での研修を行っているんです」