スポーツ史上、最高額の契約を実現
2004年にはさらに大きな賭けに出た。
フェティータ家が経営するカジノの1つ、グリーン・バレー・ランチでディスカバリー・チャンネルのリアリティー番組の撮影をしたことがあり、似たような企画でUFCの知名度を上げようと考えたのだ。
野心あふれる若手ファイターが共同生活を送りながらトレーニングを積み、UFCとの契約を勝ち取るために競い合うという企画を売り込んだが、テレビ局には軒並み断られた。最終的にスパイクTVだけが、1000万ドルの制作費をフェティータ兄弟が負担するという条件で放映を受け入れた。
番組は開始当初から話題を集め、総合格闘技のファン層は急激に広がった。ホワイトもテレビの人気者となり、怖いもの知らずのスタイルや、ファイターになるとはどういう意味かという哲学、チャンピオンになるために必要な知識などを披露してきた。既に20シーズンが放映され、今なお新しいファンを獲得している。
UFCに関しては、2005年までにフェティータ兄弟は初期投資を回収した。故マケイン上院議員もほんの少し口調が和らぎ、2007年には公共ラジオNPRのインタビューで、「私は(総合格闘技の)ファンになったわけではないが、彼らも進歩している」と語った。
2011年にUFCはFOXスポーツと7年間7億ドルの契約を結んだ。年間40回の生中継を、全世界の10億世帯以上に届けている。2013年にホワイトは「年間スポーツ・イノベーター賞」を受賞。
2016年にはUFCのオーナーシップを、ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテインメントやシルバー・レイク・パートナーズ、KKR、MSDキャピタル(デルの創設者で実業家のマイケル・デルが設立した投資会社)を含む民間投資家グループに40億ドルで売却した。
「スポーツ史上、最高額の契約だった」と、ロレンツォは当時語っている。
決して大げさではない。スポーツ界では、マイクロソフト元CEOのスティーブ・バルマーが2014年にNBA(全米プロバスケットボール協会)のロサンゼルス・クリッパーズを買収した金額の2倍。エンターテインメント業界では、ウォルト・ディズニー・カンパニーが2012年に『スター・ウォーズ』の権利ごとルーカスフィルムを買収した40億5000万ドルに迫る。ルーカスフィルムの買収は「世紀の取引」と呼ばれた。ホワイトがUFCの売却で個人的に手にした額は、3億5000万ドル以上と報じられている。元ベルボーイのボーナスとしては破格の額だ。
忘れていたつながりが大きな機会を生む
どのような尺度から見ても、UFCの軌跡は、崩壊寸前から数十億ドル規模の組織に変貌を遂げた驚異のストーリーだ。そして、2人の元同級生が偶然、再会しなければ、何も始まらなかったストーリーだ。
ホワイトとロレンツォが友人の結婚式で再会したことは、偶然の幸運に思えるかもしれない。しかし、これは、ネットワークの中で忘れていたつながりこそが、大半の人が気づいているよりはるかに大きな機会を生むという典型的な例だ。