なぜ、忘れていたつながりの方がいいのか

再会したときの2人は社会学で言う「弱い紐帯ちゅうたい(弱いつながり)」で、関係は維持しているが、めったにやり取りがない状態だった。それに対し、「強い紐帯(強いつながり)」は折に触れて連絡を取っている友人や同僚などで、互いによく知っていて、好意を持ち、信頼しているから安心できる相手だ。私たちは厳しい状況に立たされると、信頼できる親しい人に相談したくなる。

たとえば、新しい仕事を探すときは、最初は自分のネットワークに近い人を頼ろうとする。友人や家族に相談した後は、弱いつながりを飛ばして、オンラインの求人情報に事務的なメールを出すだろう。あるいは、重要な問題について助言が必要になると、安心できる近しい人だけに悩みを打ち明けるものだ。

ただし、この安心はコストを伴う。強いつながりの大部分は、1つのネットワークの中で人間関係が重複している。緊密な集団の場合も多く、クラスタ(かたまり)の中で誰かが知っている情報は、ほぼ全員が既に知っている。

肩を組む友人たち
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一方で、弱いつながりはクラスタと別のクラスタを結ぶ橋(ブリッジ)となり、新しい情報にアクセスしやすくなる。人間関係としては、弱いつながりより強いつながりのほうが、相手を助けたいという思いをかきたてるだろう。しかし、弱いつながりが新しい情報へのアクセスをもたらすことは、強いつながりが後押しする個人的な感情より大きな価値を生むかもしれない。

ホワイトを取り囲むUFCのコミュニティの人々は、自分たちの競技が衰えていることはわかっていたが、復活の方法を見つけられずにいた。一方でロレンツォは、ボクシングに詳しいラスベガスのエンターテイナーとして、ホワイトとは異なるコミュニティに属していた。

そんな2人の偶然の再会は、遠く離れているように見える2つのクラスタを結びつけ、きわめて価値の高い解決策をもたらした。

社会学の研究でも実証済

この直観に反する理論を最初に提唱したのは、社会学者のマーク・グラノヴェッターだ。彼はハーバード大学の博士課程に在籍していた1970年に、就職活動に関する調査を行った。

そのなかで、現在の仕事につながる情報をもたらしたのは友人だったかと質問すると、「友人ではなく知り合いだ」という答えが多かった(※1)。そこで、専門職か技術職、管理職に転職したボストン近郊在住の数百人を対象に、現在の仕事に採用されるうえで役に立った情報をもたらした人との関係をさらに詳しく質問した。

具体的には、情報を得た時期にその人と会っていた頻度について、「頻繁(少なくとも週2回)」「ときどき(年1回以上、週2回以下)」「たまに(年1回以下)」のどれに当てはまるかを質問した。結果は「頻繁」が17%未満、「ときどき」が55%強、「たまに」が27%強だった。週2回以下~年1回以上は幅の広い区切りだが、弱い人間関係を維持する際に連絡を取る頻度は、大半がその範囲に収まるだろう。わざわざ約束をして会うことはなくとも、すぐに近況がわかる知り合いだ。

役に立つ情報をもたらした関係は、連絡の頻度が「明らかに少ないほうに偏っている」と、グラノヴェッターは1973年に発表した論文「弱い紐帯の強み」で述べている(※2)。これは社会学で最も多く引用されている論文の1つでもある。

※1.Ronald S. Burt and Don Ronchi, “Teaching Executives to See Social Capital: Results from a Field Experiment”, Social Science Research 36(2007):1156―1183.
※2.Brian A. Primack, Ariel Shensa, Jaime E. Sidani, Erin O. Whaite, Liu yi Lin, Daniel Rosen, Jason B. Colditz, Ana Radovic, and Elizabeth Miller, “Social Media Use and Perceived Social Isolation Among Young Adults in the US”, American Journal of Preventive Medicine 53, no.1(2017):1―8