分科会会長は首相の会見に同席すべきではなかった

専門家会議=分科会の行動は、少なくとも2021年の6月初めまで政府にたいする助言機能をきびしい言葉で表現するものではなかった。それどころか、首相の記者会見に尾身茂は同席し首相からの補足説明の求めに応じるのが常態だった。まるで首相の態度は、国会の委員会審議において所管大臣、あるいは参考人として呼んでいる官僚に説明させるかのようだった。分科会会長の首相記者会見への同席には評価する向きもあった。

だが、筆者は「共同記者会見」はおこなうべきではないと考える。そうでなくとも、専門知の能動的助言が低調と見做されているなかにおいて、これは政権への専門知の「従属」といった印象を社会に与えざるをえない。行政の首長である首相は、記者会見前に専門家の意見を聴くとしても、それを咀嚼そしゃくして自分の言葉で説明すべきなのだ。それが行政の長の責任である。

「尾身発言」は公衆衛生学者としての発言ではないか

ところで、尾身茂は東京オリンピック・パラリンピックの開催が迫った6月に入って、パンデミック状況のなかでの開催について疑問を提示するとともに、大会開催によって感染拡大の危険性のあることを、記者会見や国会委員会で述べた。これにたいして政権は案の定、“越権行為”“尾身氏とそのグループの自主研究の結果”といった批判をつぎつぎと浴びせた。これを分科会会長の「越権行為」というならば、政権の意に沿わない政策への提言は、すべて越権行為だ。即効性のある治療薬が開発されていない段階での対策は予防に限られる。

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知性を欠いた政権の対応によって、政権と専門家集団との「蜜月」はあっけなく崩れさったかにみえた。尾身茂の発言の「真意」にはさまざまな憶測が飛び交った。だが、アルファ株、デルタ株といった変異株が流行しだし、ワクチン接種状況も停滞している。この段階でオリンピック・パラリンピックという一大イベントを開催するならば、COVID-19のパンデミックは抑えられない。それは各国選手団が変異株を持ち込むという意味ではなく、一大「お祭り騒ぎ」が、人びとやビジネスの行動を制御できなくなるという意味だ。

尾身発言は、WHOでの経験も踏まえた市民の感情を直視した公衆衛生学者の発言だったとみておきたい。実際、東京オリンピック開催中に、東京をはじめとしてコロナ感染症は爆発的拡大をみた。