「匿名の人の話は聞かない」

2020年12月、群馬県伊勢崎市に天台宗 照諦山 心月院 尋清寺を建立してからというもの、さまざまな悩みを持つ人から手紙やメールが届くようになった。もちろん、困っている人の役に立ちたいと思うものの、1人では限界もある。見ず知らずの人が、刃物を持って訪ねてきたこともあるという。しかし、ストーカー被害や、ネットの誹謗中傷被害を受けた髙橋さんには、「危険を察知するセンサーのようなものが備わった」そうで、「危ない」と感じた時は対応を控えている。

2020年比叡山の最乗院で作務(寺での労務で修行の一種)を行う髙橋美清さん。行院が終わったあとも、初心を忘れないため比叡山で修行を行う。「学びは一生続く」という(写真=本人提供)

「自分の身は自分で守らなければと思っています。そこで決めたのは、正々堂々と名乗らない方とは、付き合わないということ」

それでも、無記名の手紙が届くことがたびたびある。開けると、今の苦しみが延々書かれており「電話もメールも盗聴されているから手紙にした」とある。被害妄想が入っているのが、無記名の手紙に多い共通点だ。こうなると、カウンセリングやしかるべき医療機関での治療を要する。幸いなことに、信頼できる医療機関とのつながりもできた。悩んだ末、尋清寺のホームページに「精神科、医療施設等へのご相談をご提案することもあります」との一文を入れている。

一番の実害は仕事を失うこと

群馬県大泉町から連絡がきたこともある。大泉町は企業城下町で、ブラジルやペルーなど南米の外国人労働者や日系人が多い。それもあって、町では昔から人種差別の撤廃や人権擁護の取り組みに力を入れており、ネット中傷についても町独自の体制を整えたいとのことだった。

「役場が相談の窓口になるなら、警察、法務局、弁護士会、医師、ハローワークの方をメンバーに入れてほしいと伝えました。ネット中傷の一番の実害は、仕事がなくなることなんです。仕事がなくなれば社会と接点がなくなりますし、収入がなくなれば生活できなくなる。すると人は、死ぬ方向に向かいやすくなってしまいます」

撮影=プレジデントオンライン編集部
2匹の「副住職」と髙橋美清さん