玄関に張り紙を貼りメディア対応の窓口になる

――記者会見以外には、どんな報道対応がありますか?

逮捕直後から支援が行えるのなら加害者家族には、あらかじめ私の名刺を多めにわたしておきます。報道陣から取材を受けたら、窓口は私だと名刺をわたして伝えてもらうようにしています。加害者の家族が自宅から身を隠している場合は、玄関に私の連絡先を書いた張り紙を貼ってもらいます。

とくに重要なのは誤報の訂正です。SNSの普及で間違った情報でもどんどん拡散されてしまう。野田の事件でも、殺された女児の父親が、妹(相談者)をいじめていたというデマが広まっていました。それなのに、犯罪加害者の家族には訂正するすべがない。

私たちはSNSで間違った情報が広まるたび「SNSでこういう話が出ていますが、これは誤報です」と記者会見やメディアなどを通じて、間違いを指摘しています。

加害者家族の多くは生活を建て直すために転居を強いられます。しかしSNSで拡散されれば、何度転居しても、かつての犯罪が掘り起こされ、逃げ場すら奪われて、社会復帰すらままなりません。

写真=iStock.com/tadamichi
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――SNSへの書き込みについては、「加害者に対する社会的制裁だ」と容認する風潮があります。

それも大きな問題ですね。ネット上に残った誤報は、デジタル・タトゥーとして何世代にもわたり、家族の名誉を傷つけてしまいます。誤報はSNSだけの問題ではありません。捜査段階で間違った情報が流れることもある。メディアは警察発表をそのまま使うから、間違った情報が“事実”として定着してしまう。

「高級フレンチ」ではなく「普通の洋食屋」だった

最近では、2人が死亡し、9人が負傷した「池袋暴走事故」がそうです。

事故後、車を運転していた飯塚幸三氏が逮捕されなかったのは、旧通産省工業技術院の元院長という「上級国民」だからとされ、世間から激しいバッシングを受けました。たとえば飯塚氏は事故発生直後、「救急車が到着する前に息子に携帯電話をかけていた」と報道されました。でも、事実は違うんです。

――どういうことですか?

息子さんが飯塚氏から電話を受けたのは事故の55分後です。警察発表をもとにメディアが「事故直後に息子に電話した」と報じた結果、飯塚氏が息子に揉み消しを依頼したというデマに変わってしまいました。

さらに、「フレンチレストランを予約していて、遅れないように急いでいた」とも報じられました。メディアは「上級国民」を強調したかったのでしょう。でも、そのお店は「フレンチ」というイメージにはそぐわないような普通の洋食屋で、飯塚氏は懇意にしていたので遅れてもかまわない状況でした。

事故当時は、飯塚氏の家族が何を語ったとしてもバッシングが加熱するだけ。沈黙するしかありませんでした。飯塚氏と家族は、世間からの激しいバッシングにさらされました。でも、彼一人を極悪人として攻撃しても、決して社会はよくなりません。