殺人事件などの凶悪犯罪では、被害者家族には公的なサポートが広がりつつある。一方、加害者家族の場合はどうか。長年にわたり加害者家族を支援し、『家族間殺人』(幻冬舎新書)を書いた阿部恭子さんに聞いた――。(第2回/全3回)
池袋事故/実況見分に立ち合う飯塚元院長
写真=時事通信フォト
事故現場で実況見分に立ち合う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(右から2人目)=2019年6月13日、東京都豊島区

「重大事件の容疑者家族は保護できない」

第1回から続く)

――阿部さんは、犯罪加害者の家族支援のひとつに報道対応をあげていましたが、具体的にはどんなサポートを行うのですか?

私たちが報道対応を本格的に実践したのが、「野田市小学4年女児虐待事件」からです。

2019年1月下旬、千葉県野田市のアパートで、父親から凄惨せいさんな虐待を受けた小学4年生の女児が亡くなりました。前年にも東京都目黒区で、少女の虐待死事件が起きていたために、社会的な注目を集めて報道が過熱しました。そして世間は、被害者に同情し、加害者、そして加害者家族を激しく糾弾しました。

事件の報道後、私は、父親の妹、つまり女児の叔母から連絡をもらいました。警察に相談しても「重大事件の容疑者家族は保護できない」と言われ、連日、自宅に詰めかける報道陣への対処に苦慮しているというのです。

しかも家族は、逮捕された女児の父親との面会も認められず、事態を把握できないまま報道陣から身を隠すような生活を余儀なくされていました。

私たちが千葉県柏市で会見をセッティングしたのは、事件から1年ほどが過ぎた2020年2月のことです。裁判員裁判に向け、加害者家族に対して報道陣が再び殺到すると予想されました。そこで、私がメディアの窓口になって情報を提供する代わりに、加害者家族への取材を控えてもらうようお願いしたのです。

メディアスクラムを組まれ日常生活が送れなくなる

事件後、家族は住み慣れた町を離れました。相談者や彼女の幼い子どもたちも、ようやく新たな環境に慣れはじめた時期です。報道陣による執拗しつような取材で、再び転居を強いられることがないようにサポートを必要としていたのです。

事件後に加害者家族が転居するケースは少なくありません。メディアスクラムのなかでは、高齢の家族が通院することも、子どもが通学することも、買い物に出かけることもできなくなります。

隣近所の人から面と向かって非難されなくても、申し訳なさから肩身の狭い思いをする人もいます。事件を境に、当たり前だった日常を送れなくなってしまうのです。