日本の殺人事件の約半数は「家族間」で起きている。残された家族は、被害者遺族であり、加害者家族でもある。このため多くのケースでは、「加害者家族」として世間の冷たい目にさらされる。そこではどんな問題が起きているのか。長年にわたり加害者家族を支援し、『家族間殺人』(幻冬舎新書)を書いた阿部恭子さんに聞いた――。(第1回/全3回)
廊下に座り込む10代の女性
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公的なサポートを受けられない「犯罪加害者家族」

――阿部さんが、NPO法人World Open Heartの代表として、加害者家族のサポートをするようになったきっかけを教えてください。

【阿部恭子】加害者家族の支援を目的に、団体を結成したわけではないんです。もともとは支援を必要とするマイノリティーについての研究会でした。それが、私が東北大学大学院に在学していた2008年のことです。

その4年前には、犯罪被害者等基本法ができて、全国に被害者支援のネットワークが広がりました。そして2008年に裁判への被害者参加制度が導入され、翌年に裁判員裁判が始まった。私もマイノリティーとしての犯罪被害者に関心を持っていたので、そうした流れが日本社会に何をもたらすのか注意深く見守っていました。

その過程で、ひとつの疑問が出てきました。「家族間殺人」の場合、遺族は被害者、加害者、どちらの側なのか、と。

日本の殺人事件の約半数は家族間で起きています。「家族間殺人」ではない場合、被害者遺族は、犯罪被害者等基本法で公的なサポートを受けられる。しかし、「家族間殺人」の場合、残された家族は、被害者の遺族であり、加害者の家族でもあります。このため多くの加害者家族が、セーフティーネットからこぼれ落ちてしまうのです。

加害者家族のなかには自殺してしまう人も

たとえば日本の加害者家族のなかには、自殺に追い込まれてしまうケースが少なくありません。連続幼女誘拐殺害事件の宮崎勤死刑囚の父親、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚の弟、和歌山カレー事件の林真須美死刑囚の長女、いずれも自殺しています。

これは支援を始めてからわかったことですが、加害者家族の相談データを分析したところ、「結婚が破談になった」が39%、「進学や就職をあきらめた」が37%、「転居を余儀なくされた」が36%という結果でした。

一方、海外では加害者家族のサポートが進んでいます。英語圏では「プリズナーズファミリー(Prisoner’s family)」で検索をかけると、研究論文もたくさん書かれているし、支援団体もある。日本でもそうしたサポートが必要なのではないかと感じたんです。