「ゴルフより勉強」学業をおろそかにすると球を打たせない

青木はゴルフ指導の前に重視することがある。それは、学生の本分である学校の勉強を優先しろ、ということだ。

「学校に行かなければよかったと振り返る人は社会人になっていないと思うんです。結局は必要なこと。好きなことだけやって稼げたら幸せなことですけど、実際はそうもいかない。学校に行って他に好きなゴルフを学ぶ。そこで限られた時間の中で時間の配分を学ぶことになる。また学校で友達とけんかしたら、人との接し方を学ぶ。

勉強をしてきて損はしていない。スポーツするうえで時間を取られて邪魔になると言う親御さんもいるんですが、いやいや、ちょっと待って、と。ゴルフでプロになれなくて、どうやって食べていくのと逆に聞きたいです。その子の人生が狂ったときに責任はどうするんですかと」

青木が怒るのは勉強をおろそかにしたときだ。

「学業があんたの仕事だからね、と僕は親に言われました。それが本質の部分なんです、学生は。でも、今の子は自分の好きなことしかしないんですよね。勉強優先のこと以外にも、僕は、ジュニアの選手が人として間違った言動をしたときにも怒ります、言葉遣いとか。人との関わりで社会生活をするうえで大事なこと。それも親に教えられました」

青木は日常から、「宿題した?」と生徒に聞くそうだ。まだだったら、「帰りの車の中でやりや」と諭す。勉強が得意じゃない子もいる。でも、やろうとすることが大事。そうすれば成績を上げるためにどうするか考える。ゴルフのドリルと一緒だ。

勉強の時間を優先するとゴルフスクールに通う時間がない、と言う子供も親もいるだろう。だが青木は言語道断と突き放す。勉強を削ってまでゴルフをやることはない、と語気を強めるのだ。

「義務教育期間、いまは高校も義務教育みたいなものですが、勉強が本分です。テストの点を聞いたりします。また通知表を持って来なさいって。赤点だったら、レッスンは来てもいいですが、端っこで素振りです。球は打てないですよ。ボールが打ちたいなら勉強を頑張るしかない。基本、80点以下はダメです。2割は間違えているわけで。自慢ではありませんが、僕はほとんど『5』でした。やっとってよかったです」

青木は中学に入るまでいろんな習い事をした。習字、学習塾、エレクトーン。水泳が得意だった。他にソフトボールもやったし、小さい時はやはり野球をやりたかった。だが、中学受験をすることになって、結局、全部を断念する。

「たくさんの習い事は僕がやりたいって言って始めたこと。好きなことをやるなら、勉強もおろそかにしちゃいけない。一番は勉強です。中学から中高一貫の進学校(中村学園三陽)に行きましたし、大学も一般入試で行きました」

そして付け加える。

「たとえば小学校5年生ぐらいで、プロゴルファーになりたいって夢を言ったとします。でも、目指しなさいとは言わない。頑張ろうねと。目指しなさいというのは強制になる。自分はいろんな可能性を持っている、とわかってほしい」

そんな冷静さと自覚を早くから持たせたい。人の可能性は無限にあり、かつ有限でもある。矛盾した現実を、青木はゴルフ指導を通じて、伝えていきたいと考えているのだ。

青木のスクールはゴルフもうまくなるし、勉強もさせる。生徒の親はありがたいかもしれない。ゴルフを教えるととともに他に大切なものを教えている。

「そんな大それたことを教えているかわからないですが。どういうゴルファーに、どういう大人になってほしいか、技術は練習すれば何とでもなるんです。大事なのは人間性。ゴルフを通して何かを学んでもらえたらいいなと。プロになるより、それより大切なものを伝えられたらいいなと思います」

ジュニアたちが参加する試合やツアーにもあまり帯同しない。そんな異色のコーチが異彩を放っている。

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