渋野が優勝した全英でもアドバイスはしなかった
仕事も一緒だ。基本が備わっている部下にはテクニックの伝授は不要かもしれない。本人が試行錯誤して得たものが貴重な答えだ。上司や先輩がノウハウをそのまま教えるのではなくて、考えさせることが大事だと青木は言う。
渋野が優勝した全英でもアドバイスはしなかったという。
「そこまでに国内で2勝している選手で、試合中に感じてることはそのまま、やらせます。向こうにはバンカーがあるから打っちゃダメ、ということぐらいは言いますが、他は選手の感性です。こう思うんですが、どうですかと問われたらこう思うと言いますが、決断するのは選手だから」
あくまで本人に考えさせる。ウッドなのかアイアンなのか。何番か。スイングの強さは。選択肢の答えを導くのは本人。決断させて、プレーさせる。そうすることによってナイスショットになれば成功体験になる。その自信は同じシーンになっても迷うことはない。
自ら気づいたものは、自身の技術のストックになる。選手の力量に合った練習を自分の判断で実行する。だからアカデミーの時間割はあえて適当にしているそうだ。
「生徒がアカデミーで打ちたくなったら、日時を自分で決めて連絡をこちらに入れて、と伝えてあります。練習の内容を僕は決めません。僕が不在だったら自分で練習するしかないんだし、課題は常にあるわけで、なんで俺が指示を出さなあかんのと」
そして、重視するのはやはり基本だ。
「毎回、新しいことをやるというのが間違っている、プロ野球選手になったからって、キャッチボールをしない選手はいないでしょ。サンドウェッジは毎日、何百球も打たなきゃいけない。短くて(扱いが)易しいクラブで打つことは普遍の基本なので。ただ、その子にとってやるべきものは変ってくる。サンドウェッジの他にも課題は出てくるので、自分で考えないといけない」
日本のスポーツ系の習い事は、周囲の押し付けがかえって不幸を招いているかもしれない。選手自身が自分の意志で獲得したものではないと、幸福感を得られない、と青木は言う。
「日本のやり方は、(親やコーチなどが)あれやれ、これやれと言う。やらなかったら、どうにかしてやらそうとする。自分がその立場(子供時代)で、やれと言われて、やらなかったじゃないですか。自分で気づかせればいいんです。ほっとけばいいんですよ。成長するかどうかは早く気づけるかにかかっている。
『気づかしてくださいね』とジュニアの親に言われるんですが、失礼ながら『あなたたちは一歩二歩、下がりなさい』と言います。がみがみ言っているうちは、子供は自分で考えないし、何も得ようとしない。やらなきゃいけないのは子供なりにわかっている。言われるとあまのじゃくだからやらないんです」