若い人を成長させるにはどのように接すればいいのか。参考になるのが、プロゴルフコーチの青木翔さんだ。2019年、渋野日向子が全英女子オープンで優勝した時、コーチを務めた。今も、ポスト渋野のプロやアマチュアの若手有望株を指導しているが、その方針は「ほったらかし」だという。スポーツライターの清水岳志さんがその奥義に迫った――。
選手へのコーチングの極意「一言で言うと、放置です」
その男が一躍脚光を浴びたのは2019年の全英女子オープンだった。プロになりたての当時20歳の渋野日向子(現23歳)が海外メジャー初挑戦でいきなり優勝して世界の度肝を抜いた、あの試合。渋野に寄り添いキャディバッグを担ぎ、スイングコーチも務めた。
プロゴルフコーチ青木翔、38歳。
「メジャーで優勝なんて、本当にすごい場面に立ち会えたことに感謝です。今の僕があるのは彼女のおかげです」
渋野と青木の出会いは2017年のこと。渋野がまだ19歳で、アマチュアの時代だ。
「ゴルフメーカーからの紹介でした。最初はボールがきちんと当たらなかった。この子はこれでよくここまで来たなと。でも、そこから基本レッスンを重ねて、最初のプロテスト(2018年)で不合格にはなったものの、2次をトップで通過でしたし、何かを持っていると確信しました」
2019年5月のサロンパスカップと資生堂アネッサレディースの2つのトーナメントに優勝。全英の切符を手にして、一気にメジャーチャンピオンに上り詰める。樋口久子以来、42年ぶり2人目の海外メジャー制覇だ(2019年は日本女子プロゴルフ協会のツアーでも4勝)。
青木はたった2年間で、どうやって渋野を世界チャンピオンにまで育てたのか。
青木はふだん、兵庫県で若手プロを含めた若年層向けの「AOKI SHO GOLF ACADEMY」を主催している。単刀直入に渋野を含む選手に教え込むテクニックを問うと、意外な答えが返ってきた。
「一言で言うと、放置です」
ほったらかして、教えないという。いや、そんなはずない。でなければ、止まっているボールに当てられないこともあった渋野が全英優勝などできるはずがない。