このような精神力を育てるうえで、ジョビィキッズの役割は極めて大きかった。今から14年前にできたこのタレント事務所の前身は幼児教室だった。土屋氏は、独自のポリシーを持ち、お受験だけを目的にした予備校的な幼児教室ではなく、一人ひとりの子供の個性を重んじ、自信を持たせることに専心した。子供にも、大人と同じように個性やプライドがあり、それを一元的に点数で評価してしまうことに疑問を持ったのだ。実際、人前で言葉が出なかったり、だめと言われて深く落ち込んでしまったりする子供は少なくない。だがそういう内向きの子供でも、ひとたび自信を持たせると、その後はどんどん成長する。このような貴重な指導体験が所属タレントの育成にも生きているのだ。

ジョビィキッズは、事業開始当初18人の生徒しかいなかった。それが現在では1300人に増え、仕事のオファーも月約700件にも上っている。まさに子供たちに自信を持たせる指導の成果といえる。

さらに、ジョビィキッズでは、入ってきた子供の扱い、鍛え方が秀逸である。なかには3歳、5歳という幼児もいるが、そんな幼い子供でも所属した以上はすでに「役者」と考え、一生懸命取り組まない場合には、「なんで真剣にやらないんだ」と叱咤するそうだ。プロの演技人であるという自覚を植えつけるための愛のムチといえる。

老舗ブランドがCMキャラクターに起用した理由

面白いことに、このような真剣勝負の張りつめた空気の下では、逆にレッスンを受けている子供の側もシビアに指導者を観察するようになるという。先生が少しでも油断すると、5歳の子供でも「先生、今の芝居もっとこうしたほうがいいと思う」と意見するそうだ。まさに真剣勝負。このような緊張感ある環境が、愛菜ちゃんのような優れた人材を育んでいくのだろう。

愛菜ちゃんの人気の理由に関して、彼女が登場するCMの側面から明らかにしてみよう。彼女は現在、日清食品、イトーヨーカ堂、キヤノン、ブルボンなどをはじめとする数多くのテレビCMに引っ張りだこの状態である。日清食品では、ロングセラーの主力商品、チキンラーメンのニューキャラクターとして愛菜ちゃんを抜擢した。このときの経緯について、マーケティング部第3グループ・ブランドマネージャーの森常恭氏は次のように語る。

「チキンラーメンは、50年以上続くロングセラー商品であり、高い成果を上げ続けること、そして常に目立つことが課題です。今回、芦田愛菜ちゃんをCMに起用した理由は、激しい社内競争および社外競争に打ち勝ち、ロングセラー商品をさらに強化することにありました」