短くも充実した、その生涯

金子みすゞの作品は透明なフィルターのように、そこを通りすぎた人の心を純化してくれる。本来歌われるために創られた童謡詩だが、メロディーは読む人一人一人の心の中でかなでられれば良い。

優しい日本語、やわらかいリズム、哀しいけれど暖かい。とても身近で、そして大きな存在。私の人生の中で金子みすゞの作品に出会った幸運に感謝せずにはいられない。

私は何者なのか? 何が欲しくて何が大切なのか? 私は自分を信じているだろうか? そんなことを、正座して、剣をつきつけて問いかけるのは簡単だ。金子みすゞはそよ風のようにさりげなく優しく問いを投げかける。投げかけたものに気づいた人だけが立ち止まればいい、と。

      草の名

   人の知つてる草の名は、
   私はちつとも知らないの。


   人の知らない草の名を、
   私はいくつも知つてるの。


   それは私がつけたのよ、
   好きな草には好きな名を。


   人の知つてる草の名も、
   どうせ誰かがつけたのよ。


   ほんとの名まへを知つてるは、
   空のお日さまばかりなの。


   だから私はよんでるの、
   私ばかりでよんでるの。

人は金子みすゞを「薄幸の人」という。だがほんとの呼び名は、彼女が自分でつけるのだ。

〔金子みすゞの生涯については矢崎節夫氏の「金子みすゞノート」(LULA出版局発行『新装版 金子みすゞ全集』)を参考にさせていただきました〕

※1994年4月号のプレジデント誌にて掲載されたものを再録。

(金子みすゞ著作保存会写真提供 岩崎 隆=撮影 PIXTA=写真)