慶應SFCの入試問題のテーマは「不条理」

今回の大学入試改革で評価の要になった「思考力」「判断力」「表現力」。全国約50万人が受験する共通テストでは、採点の面から記述問題は見送られたが、これらの力を身に付けていくことが重要であることは変わりない。共通テストで実現できなかった記述式は国公立大学の二次試験や私立の大学入試では実施された。

なかでも慶應義塾大学SFC環境情報学部の入試は、非常に良質な入試問題だった。テーマは「不条理」だ。「私たちが生きる世の中には不条理なことがたくさんある。それら臭いものに蓋をしても、隠し通すことはできず、近い未来に必ずそれらの不条理と向き合う日がやってくる。腰がひけたまま、他人事のように未来をただ待つのではなく、私たち一人ひとりがどうすればそれらの不条理を解決し、残すに値する未来を想像できるかを考え、できることを仕掛けることが大切だ」(内容簡略)という文章の後に続いて、最初に登場するのが数学の問題だ。

問題の冒頭には「不条理を解決する第一歩は、論理的にあり得ない問題を発見し、定量的な観点から、合理的な答えを導き出すことです」と書かれており、その後に論理的に正しいかどうかを判断する問題が出題されている。数学の問題自体はそれほど難しくはないが、世の中の不条理について考えさせる問題で、まず数学の問題を出してくるところがおもしろい。数学の基礎を測るという目的もあるのだろうが、「定量的な観点から、合理的な答えを導き出す」には、教科の枠にとらわれない教科横断型の学びが大切であることを伝えている。

これぞ「生きる力」を身に付ける教育のゴール

次の問題は「あなたがこの世の中で不条理だと感じること」を15個、不条理の内容と理由をそれぞれ書くというものだった。Ⅰ問目の数学と打って変わって、自分の考えを記述する問題だ。課題ジャンルが「人間の習慣に関すること」「社会のしくみやルールに関すること」「人間と環境の関係に関すること」と3つ指定されてはいるものの、15個挙げるのはかなり大変だ。日ごろから世の中に関心を持っているかどうか、それについて自分で考え、自分なりの意見を論理的に伝えられるかどうかという、まさに文科省が新学習指導要領で提唱している「思考力」「判断力」「表現力」を求める問題と言えるだろう。

石川一郎『2024年の大学入試改革』(青春新書インテリジェンス)

そして最後に、自分が不条理と感じていることから3つを選び、その解決の方向性と方法をビジュアル入りで説明をするという問題が出た。問題の発見から解決まで、一連の流れを見ようとする入試で、これこそ、文科省が掲げた「生きる力」を身に付ける教育のゴールと言えるのではないだろうか。

大学入試改革のスタート年である2020年度入試は、新型コロナウイルスによる世の中の混乱の陰に隠れ、それほど大きく話題にならなかった。しかし、ここまで説明した通り、共通テストにおいても、私立大学の入試においても、「確かに変化があった」のだ。この変化を軽く見るか。重く受け止め、従来の知識詰め込み型の勉強から未来につながる学びへと変えていけるか。21年からは中学校で、22年からは高校で新しい教育が始まり、一新された教科書で学んだ世代が初めて大学受験を迎える2024年、大変化の本当の姿が明らかになったときに、その力が試されることになる。

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