受賞ラッシュの日本に中国が立ちはだかる?

2021年のノーベル物理学賞に、日本出身で米国籍の研究者・真鍋淑郎さんが決まった。自然科学3賞と呼ばれる、生理学・医学賞、物理学賞、化学賞を受賞した日本国籍の研究者は22人、真鍋さんのような米国籍の人も加えると25人になった。

現在90歳の真鍋さんは、東大大学院を修了後、渡米。1960年代にコンピューターで気候変動モデルを作成し、地球温暖化予測の基礎を築いた。気候科学が物理学賞の対象になるのは初めてで、真鍋さんは「驚いた。初めは好奇心でやっていた。こういう大事な問題になるとは夢にも考えていなかった」と語った。

ノーベル物理学賞の受賞が決まり、プリンストン大で記者会見する真鍋淑郎上席研究員
写真=時事通信フォト
ノーベル物理学賞の受賞が決まり、プリンストン大で記者会見する真鍋淑郎上席研究員=2021年10月5日、アメリカ・ニュージャージー州

2000年代に入ってから日本はノーベル賞受賞ラッシュが続いているが、研究力低下という深刻な問題を抱える。背景には、海外への「頭脳流出」の問題もあると見られる。真鍋さんは1997年に帰国し、科学技術庁(現・文部科学省)の研究プロジェクトの研究領域長に就任したが、2001年に辞任し再渡米した。役所の縦割り行政に、他の研究機関との共同研究を阻まれたことが原因と見られている。

一方、中国は質の高い論文数ランキングで米国を抜いて世界1位になり、ノーベル賞候補と目される藤嶋昭・東大特別栄誉教授が中国の大学に移籍するなど、世界から注目を集める。今後、ノーベル賞候補に中国の人材や大学が名を連ねるようになるのだろうか。真鍋さんも藤嶋さんも、良い研究環境を求めて「頭脳流出」した。研究環境を改善しないと、ますます日本は研究力の低下とノーベル賞候補の減少を招く恐れがある。

日本政府は「50年で30人受賞」を目指してきた

中国籍のノーベル賞受賞者はまだ1人しかいない。中国系米国人などの受賞はあったが、中国籍の人が受賞したのは、2015年にマラリア治療薬の研究で生理学・医学賞を受賞した女性研究者・屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ)さんが初めてだ。

2000年代に入ってからのノーベル賞受賞ラッシュで、真鍋さんなど米国籍の3人も加えると日本はこの21年間で計20人が自然科学系の賞を受賞した。ほぼ毎年1人が受賞している計算になる。日本政府は2001年に、「50年で30人」という世界でも例のないノーベル賞受賞の数値目標を立て、「ノーベル委員会」の拠点があるストックホルムに事務所を開設し、情報収集や日本の情報を発信するなど、受賞者拡大に力を入れた。国を挙げて科学研究を推進する中国も、日本のように続々と受賞者を出したいだろうが、専門家たちの見方は厳しい。

理由は、中国に対する国際的な評価がまだ高くないことだ。質の高い論文数で1位になったとはいえ、ノーベル賞選考にあたっては、国際的に著名な賞を受賞していることや、同分野の研究者間での評価など、さまざまな「指標」で判断される。この点で中国はまだ弱い。