※本稿は、キム・ミニョン『教養としての数学 数学がわからない僕と数学者の対話』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
今では当たり前の「確率」という概念を生んだある問題
確率は、いまでは中高生が数学の授業で必ず習うもので、ずいぶん簡単に見えますが、その理論が発明されたのは、17世紀のことです。当時は発明しなくてはならない概念でした。
原点は、会計学の父と言われるルカ・パチョーリ(1445-1517)の提示した「点数の問題」。これが、確率が発明されることになった「世界の歴史を変えた瞬間」です。
「点数の問題」とは、目標点数を先に獲得した人が掛け金を総取りする賭博ゲームの途中でゲームが中断されたら、掛け金はどうなるのかという問題です。
たとえば、Aが5点、Bが3点とった段階で火事が起き、ゲームが中断されて再開できなかった場合、賭け金はどうやって分けるのか。
単純に考えれば、Aが勝っていたのだからAが総取りすればいいとなるでしょう。でも、パチョーリはそれでは不当とし、途中の点数が5:3なら掛け金も5:3の比率で分けなければと考えました。15世紀のことです。
確率とは過去のためではなく未来を考えるもの
しかし、その後の16世紀に活躍した数学者のニコロ・タルタリア(1499-1500または1557年)はこれに異を唱えました。彼は、「点数の問題」は私たちが思っているよりもずっと難問だと言ったそうです。
時が流れ、科学革命の時代になった17世紀。数学者で物理学者のピエール・ド・フェルマーと、数学者で哲学者であるブレーズ・パスカルが、手紙で「点数の問題」を議論しました。
そして、2カ月にわたるこのやりとりで、2人はこれを完全に解決しました。
AとBの勝つ「確率」は何かということに注目したのです。これまでに得た点数ではなく、これから得る点数を問題にしました。
5:3はそのときまでに得た点数、すなわち過去について考えたものです。ところが、思い切り視点を変えて、過去ではなく未来について考え、各自が勝つ確率を計算すべきだと主張したのです。
これが確率論のはじまりと言われています。
つまり確率とは、過去ではなく、未来を考えるための概念というわけです。