2020年度、大学入学共通テストが始まった。入試の変化は私立大学でも起きている。大学入試改革に詳しい石川一郎さんは、「なかでも話題になったのが、早稲田大学政治経済学部の入試改革だ。数学は必須化され、社会の入試も大きく変わった」という――。

※本稿は、石川一郎『いま知らないと後悔する2024年の大学入試改革』(青春新書インテリジェンス)の一部を加筆・再編集したものです。

早稲田大学の大隈講堂
写真=時事通信フォト
2020年5月25日、早稲田大学の大隈講堂(東京都新宿区)

コロナの陰でひっそりと始まった教育大改革

2020年度から小学校で新学習指導要領が導入され、大学入試改革が行われた。新しい大学入試では、「大学入試センター試験」が「大学入学共通テスト」へと名前を変え、これまでの知識を中心とした入試から、「思考力」「判断力」「表現力」を測る入試へと変わることは決まっていたが、当初予定していた英語の4技能(聞く・読む・話す・書く)評価と、国語と数学での記述式入試の導入については、採点の不透明さが指摘され土壇場で中止に。こうした混乱ぶりだけがクローズアップされ、「教育改革といっても、結局、たいして変わらなかった」という見方をする人は少なくない。

また、タイミングとして、新型コロナウイルスの感染拡大に人々の関心が集中したこともあり、本来であればもっと大きく取り上げられるはずだった日本の教育大改革はひっそりと始まった。

「出口=大学入試」から日本の教育を変える

しかし、私は今回の大学入試は「確かに変化があった」と判断している。一番分かりやすい変化は、実社会を意識した内容にシフトチェンジしていることだ。30年ぶりとなる大改革が行われた背景には、急速な社会の変化がある。PCやインターネットの普及によるIT化やグローバル化など、私たちが暮らす社会は30年前と大きく変わっている。さらに、今はコロナ禍で学校の授業はオンライン授業になり、自宅でリモートワークをする人が増えるなど、生活スタイルまでが激変した。この事態を2年前に予想することができただろうか。

このような未知の社会で生きていくには、今ある知識を使って、自ら考え、判断し、行動すること、すなわち「思考力」「判断力」「表現力」を鍛えることが重要だと考えられるようになった。文科省ではこれまでもこの3つの力を育成する教育を目標に掲げてはいた。しかし、いくら理想を述べたところで、出口となる大学入試が変わらなければ、そのための勉強をせざるを得えない。そこで今回の改革では、大学入試の中身を変えることにしたのだ。IT化やグローバル化の遅れによる日本経済の低迷は、従来の知識重視型の教育にあると考えた政府は、「強い日本」を取り戻すには、「教育の再生」が「経済の再生」と並んで重要課題であるとし、いよいよ本気で改革に乗り出したというわけだ。