娘への暴力

2015年3月。“恐れていたこと”が起こった。テレビを見ていた夫が、近寄ってきた次女を突然蹴ったのだ。

脳外科医に相談すると、攻撃性を抑える薬を出してくれたが、効きすぎて寝たきり状態になってしまったため中止する。

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一方、2週に1度の抗がん剤治療の日、主治医が義母を連れてくるように言っていたため、白井さんが義母を連れてくると、主治医は言った。

「息子さんによる、奥さまやお孫さんへの暴力が増えているのを知っていますよね? この症状は、今後悪化していくと考えられます。このまま奥さまだけで介護するのは危険です。目の前に包丁があれば、刺してしまうかもしれません。そして何より、お孫さんたちの記憶が、“優しいパパ”から“怖いパパ”に変わってしまうのが1番心配です。

そこで提案ですが、息子さんはご実家で生活をして、奥さまやお孫さんが毎日会いに行くというスタイルに変えるのが1番望ましい形だと思います。お母さまは一人暮らしだとお聞きしましたし、娘さん(義姉)にも助けてもらい、週末はみなさんで過ごすというのはいかがでしょうか?」

すると義母は淡々と答える。「いえ、私は仕事をしてますので、うちで看るのは無理です。子どもなんて、多少殴られたって大丈夫ですよ。私たちの子どもの頃なんて、親に叩かれて育ちましたよ」

白井さんと主治医は唖然。しかし、主治医は言った。

「悪い事をして、しつけとして親に叩かれるのと、何もしていないのに、急に親に叩かれるのでは全然違います。子どもは繊細です。心に傷が残ってしまったら大変な事になりますよ。ましてや女の子です。男性恐怖症だとか、一生を左右してしまうことにだってなりかねません。息子さんを第一に考えるお母さまの気持ちもわかりますが、息子さんが愛するお子さんのことをもう少し考えてください」

しかし義母の心には届かない。

「でも、私は仕事がありますから、うちで看るのは無理です。孫がパパを怒らせるのがいけないんですよ」
「……そうですか。それなら、どこか施設や病院に入っていただくのがよいと思います。何か起こってからでは遅いのですから」

主治医がこう言うと、義母は突然ヒートアップした。

「そんなの息子がかわいそうです! 絶対ダメです! 家で看れますから大丈夫です! 怒らせない様に上手くやれば大丈夫です!」
「よくご家族で話し合って決めてください」

主治医の話は終わった。だが、義母は帰るなり義姉夫婦に主治医の悪口をぶちまけただけで、話し合う機会などなかった。

「いつしか、『夫がどうしたいのか』ではなく、『義母がどうしたいのか』が優先される介護になっていました。ご高齢の方の介護にはない、若い夫の介護の難しさを学びました……」

白井さんは諦めかけていた。