リハビリ開始

同じ頃、白井さんは夫にリハビリを受けさせようと考えていた。脳に適度な刺激を与えたほうがよいのではないかと思ったためだ。

白井さんは、以前勤めていた大学病院の上司にあたる脳外科医を訪ね、これまでの経緯を説明。上司は、週一でリハビリに通うよう勧めた。ある日、リハビリに向かう車の中で、白井さんは何気なく「あなたは自分が脳腫瘍なのって知ってる?」と夫に話しかけた。

すると、いつもは無視するか「うるせ~な~」としか言わない夫が、「知ってる」と返答。驚きつつも白井さんは続ける。

「あと余命9カ月だって」
「そうなの? やばいね」
「私1人で娘2人育てるなんて絶対ムリなんだけど~」
「よろしく~」

口調は棒読みだが、言っていることは、病気をする前の夫のそれだった。

「私、絶対ひとりぼっちなんて無理だから、再婚すると思うけど、い~い?」
「全然いいよ。しな~」

白井さんは、珍しく会話が成立するのが嬉しくて、質問攻めにする。

若いデザイナーチームのシルエット
写真=iStock.com/PrathanChorruangsak
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「本当? 嫌じゃないんだ? ヤキモチとか妬かないんだ?『俺が死んでも、俺だけを想ってろ!』とか思わないんだ?」
「全然。好きにしな~」

これが夫との最後の会話らしい会話だった。このときの夫の言葉が、後の白井さんを救うことになるとは、この頃は想像もしなかった。