ただのお手伝いだった女性も自律的にお金を稼ぐように

レタス栽培の輸出・遠隔化に加えて、農業の多角化も行いました。

マルシェかわかみで販売されているハーブコーディアル 写真=筆者提供

写真は、村の中に「マルシェかわかみ」という産地直売所を立ち上げた際の商品一例です。今までレタスだけを生産していた村は、産地直売所をつくったことで、大きな変化を遂げました。観光へのインパクトはもちろん、そのような産地直売所をつくることでそこが一つのコミュニティになり、六次産業化(作物の加工・販売・流通)のアイデアをもった人や、レタス以外の野菜をつくっていた人達がお金を稼ぐ場ができたのです。

比較的若い男性が大型の農場でレタスを生産する一方で、その裏で必ずしも主役ではなかった女性や高齢者の方々が、実は六次産業化をやりたいというニーズを秘めていました。ただ自家消費するだけだったレタス以外の様々な野菜も、産地直売所から消費者へ届けることによりお金になり、それにより新しい野菜の生産が広がるというような良い循環が生まれてきました。

写真の瓶はハーブコーディアルというもので、白樺の樹液を使ったシロップです。これはメディアにも取り上げられて人気が急上昇し、季節限定ですがAmazonでも販売されています。これをつくった女性はもともと農家のお手伝いをしていましたが、それ以外のビジネスを立ち上げて自立的にお金を稼ぐことができるようになった成功事例の一つです。

保守的な環境の中、小さくても何か一つ具体的な事例をつくって見せることの効果は予想以上に大きいものでした。価値を見出せない人からすればただの樹液ですが、これを加工したものが実際にAmazonで売れていく様子を見せることができれば、コミュニティの閉鎖性を打ち破るための現実性を帯びた説得材料になります。最初に意欲を持ってくれる人々、第一陣になってくれる人々を全力で応援したことが成功につながったと思います。

小さなチャレンジの種をまく

私が行ったことは、公務員として何か制度や条例をつくるということではなく、たくさんのプロジェクトをプロデュースするやり方を見せるというイメージでした。その中で課題を見つけて、環境を変化させつつ目的に向かって動かしていく。役場としてそのような住民への携わり方がしっかりと根付いていけば、新しいプロジェクトは自然と広がっていくはずだと思っています。

一つの大きなアイデアやビジネスで成功を収めるというのは、非常に難しいものです。それよりも役場のサポートのもとに100の多様で小さなチャレンジの種をまき、そこから成長した様々なアイデアを実現に導くことができる地域になれば、ローカルな主体がグローバルな舞台へと発信して通用する可能性が高まるのではないかと思います。

西尾友宏ほか『グローカルビジネスのすすめ』(紫洲書院)

地域のものをグローバライズしたり、外のものをローカライズしたりしながらビジネスをつくっていくのは、最終的にはそれぞれのプレーヤーです。私は公務員という立場で携わったので、プロデューサーとしての立場、すなわちアイデアを持っている方や意欲がある方の相談に乗りながら、適切な環境やチャンスを紹介していくという立場に立つことが多くありました。このような役割に全力で取り組んだ結果が、川上村での成果につながったと捉えています。

地方の経済に変化を起こそうという場合には、経済活動以前に、やはり社会関係をどのように扱うかということを考えることが大きな課題です。コミュニティが変われば、それと連動して技能実習生への接し方や、ビジネスに対する見方、イノベーティブな人への寛容性など、「地域性」の根本からポジティブに変わり、それが結果として経済を変えていくのかもしれません。

プレーヤーとして何か新しい事例をつくっていくということも非常に大事ですが、たった一人のプロデューサーが全体的な流れを円滑にすることもあります。自治体、住民の方々、企業、都市の関係者などと広く浅くコミュニケーションをとることで、たくさんのプロジェクトに携わりながら、多くのプロジェクトを総合的にプロデュースする存在は重要だと思います。

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