外国人技能実習生に依存した農業からの脱却

ここからは先に紹介した農業構造の改革、ならびに女性の「幸せのロールモデル」の具体的な事例をご紹介していきます。

まずは農業の部分です。先ほど紹介したように、レタスの栽培には多くの外国人の技能実習生が携わっています。現在、川上村の人口は4000人を切っていますが、夏場になると1200人ほどの外国人技能実習生が来村します。

逆に言うと、それだけ多くの外国労働者を受け入れないと今の農業が成り立たないということです。

Googleで「川上村」と検索していただくと、非常に残念ですが、予測変換で「ブラック農業」といったのキーワードが出てきます。これは過去に、実習生の労働に人権的な問題があるのではないか、というような指摘を受けてしまったことが原因です。レタスの栽培には、どうしても非常にきつい肉体労働が伴います。

ほとんどの農家の人々は技能実習生の方々にも家族のように接しています。しかし、ごく一部、過酷な労働となってしまったことも事実でした。

これは非常に良くない状況だと考えました。自分達の農業を守っていくためには、外国人という仲間の存在が必要不可欠です。それならば、彼らが川上村の農業に携わるにあたって、賃金だけではなく生活環境や労働環境などを含めた彼らにとってのメリットを最大化しなければ、そもそもこの村に来てもらえなくなってしまいます。

かつては中国からの労働者が主流であったものの、中国における所得の向上に伴い、実習生の層はベトナムなどの東南アジア諸国へ推移してきました。しかしベトナムでも、経済発展するにつれて日本でお金を稼ぐメリットがなくなってきているのが現状です。これらの点を総合的に考えても、技能実習による外国人労働力に依存する農業形態そのものが非常に危ういものであるという危機感につながります。

本当に農業を学びたい学生だけを受け入れる

この問題を解決するべく、まずベトナムの大学と連携協定を組み、技術習得意欲の高い学生の受け入れを行うことにしました。

これまでの技能実習生というポジションは、語弊を恐れずにいえば、労働雇用契約としてお金を払って働いてもらう「だけ」の存在でした。ここから一転して、本当に技能として農業の生産技術を学びたいと思っている農学部の学生に来てもらう、すなわち本来の実習の要素を見つめ直す形で、受け入れの体制を変えたのです。

労働ではなく大学の授業の一環として技術を学びながら、我々としては農業のお手伝いもしてもらうというような、お互いにとってプラスになる関係を築こうということで、学生を積極的に受け入れはじめました。

コミュニケーションが障壁にならないように、日本語を話すことができる外国人を国のお金で市町村に雇うことができる国際交流員制度を利用して役場でベトナムの方を雇い、村内の学校などでも国際交流事業を開催もしました。

これは国際貢献事業として重要なのはもちろん、川上村のブランド力を向上させることにもつながり、また技能の習得意欲の高い学生に来てもらうことで、住民の外国人に対する意識を改革していこうといった意味も含まれています。

この結果、しっかりとした学びに対する意欲を持つ学生が来村することになり、生産性も向上することにつながったと考えています。現場を見ていても、農業を通じて日本人と外国人の間にあった壁が少しずつ取り払われてきたとも感じています。

実際に、作物の株元を保護するための「農業用マルチ」と呼ばれるツールを使った生産の研究がベトナムでも始まったという報告を受けているので、今後さまざまな技能を実際に学んだ学生が本国に持ち帰り、ベトナムの農業の生産性の拡大に少しずつ貢献できるのではないかと期待しています。

このようにサプライチェーンの最初の段階からすでにグローカリゼーションが始まっているという点は、川上村のグローカルビジネスの特徴だと思います。その点に関して、外国人とのコミュニケーションや、人権に関する認識を含む異文化理解のスタンダードを共有することの重要性を痛感しました。

レタスを持っている人
写真=iStock.com/Shutter2U
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