保守性が女性の幸福度を下げる

経済の問題に加えて、人口減少の対策にも取り組まなければなりません。川上村では20代から40代の半分以上に配偶者がいないという状況で、配偶者がいなければ当然子どもも生まれません。人口減少に拍車がかかるのも納得です。

農業の主役となる男性の配偶者は、村の外から来ることが多いのが現状です。この点がある以上、外から移り住んでくる女性が住み良いと思える地域でなければ、非婚率は下がらないのではないかと考えました。

女性に川上村の生活を楽しんでもらい、川上村で生活をしたいと思ってもらえるような環境をつくらなければいけないということで、先ほどの経済の多角化とならんで、女性の活躍推進をもう一つの施策としてすすめました。

実際の子どもの数と理想の子どもの数を統計に照らし合わせて比較すると、川上村の暮らしに満足している人の方が、実際に満足していない人よりも、理想の子どもの数が増えていることが分かりました。

地方創生のためによく行われている施策として、子どもが生まれた時に自治体からお祝い金を支払うということが挙げられます。もちろん、それは一市民、一国民としてありがたいことですが、それがストレートに少子化対策につながるかというと、疑問が残ります。そのような一時的な措置ではなく、むしろその地域の生活に満足していることの方が、希望する子どもの数、実際の子どもの数ともの増加につながるということも、実際のアンケートデータとして出ていました。

総合・男女別の結婚幸福度順位(括弧内はQOM指数)の図表 出所=パートナーエージェント「全国QOMランキング」川上村の数値は2016年時点での概算値(筆者提供)
出所=パートナーエージェント「全国QOMランキング」川上村の数値は2016年時点での概算値(筆者提供)

図表4は、結婚幸福度調査にもとづく川上村の位置付けです。これを見ると、男性と女性の間で川上村の生活に対する意識が分かりやすく異なっており、女性の幸福度が非常に低くなっています。女性の幸福度が低い状態が続けば、都会に出た村の女性は帰ってきませんし、外からの女性も来てくれないというのは当然の結果です。

男女別、女性活躍に向けた意識調査の図表 出所=筆者提供
出所=筆者提供

次に、「女性が住みやすい村にするためにはどのようににしたらいいのか」というアンケートをとりました。その結果、男女で意識が異なる項目が明らかになりました。それは「女性に対する社会意識の改革」という項目でした(図表5)。田舎に行けば行くほど、男性優位の傾向が強くなります。加えてコミュニティの結束が強いがゆえに、長老的に物事を決めていくのは高齢の男性です。

女性の人達が住みにくいと感じる原因は、そのような保守的な傾向への反感であるというのが、データ分析から得られたのです。女性の生活満足度が高い家庭のほうが子どもの数が多いのに対して、そうでない家庭では自由度の低さから女性の生活への不満が生じ、子どもの少なさにもつながっているのではないかと思います。

女性がチャレンジできる環境の創出が必要

こうした地道なデータ収集の結果、さらに一つの大きな特徴として、若年の女性が高い自己実現意欲を持っているという事実も見えてきました。結婚を機に川上村に転入してきた女性の7割は村外出身です。これは私も現地に行って改めて気づいて驚いたのですが、田舎の地域にいる女性達は都市部出身の人が多いのです。これはなぜでしょうか。

川上村にはある程度お金がありますので、住民の多くが高等教育を受けます。しかし、高校以上の高等教育機関が地域にないため、東京が近いということもあり、大都市の大学や専門学校の高等教育を受けに行きます。ここまでは男性も女性も変わらないのですが、やはり村の女性達は村に帰ってきても就ける仕事が限られるため帰ってこない傾向にあります。一方で男性も実はそのことに気づいており、自分が村に帰ってきてからでは結婚相手を見つけにくいということを理解しています。

そのため大学時代にお付き合いをされていた方と結婚して、配偶者として村に連れてくるというケースが非常に多いのです。

ジェンダーのイメージ
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです

出会った場所が東京となると、実際に川上村に移住した女性は、東京や埼玉、千葉などの都市の環境で育ち、高等教育を受けてきた女性が多いです。彼女たちにも夢があり、やりたい仕事があり、地方では培いにくいスキルを身につけてきました。

しかしいざ村に越してくると、保守的な環境の中で農業のサポート、家事、子育ての役割などが一手に期待され、これに対して不満を抱えてしまうことになります。自分はこのようなことをしたい、という具体的なイメージやスキルを持っていても、それが実現できないという保守的な環境に対して、不満を抱えていたということです。

こうして見えてきた女性の不満を生み出す環境を打破するために、「幸せのロールモデル」の生成を目指しました。簡単に言うと、女性が新しいチャレンジをしたり新しい仕事をすることで、実際にお金を稼いでいく実例を川上村の中で積み重ねていこうという試みです。そのように実績をつくり出していくことにより、女性の生活の満足度を上げるとともに、保守的な空気に対して目に見える結果をもって一石を投じることが狙いです。