各地で地方創生の動きが活発化する中、積極的な事業者支援で注目を集める長野県。施策の具体的な内容や込めた思いについて、阿部守一長野県知事に聞いた。
阿部守一●あべ・しゅいち
長野県知事
──地方創生において産業振興は重要なテーマです。“企業活動の場”としての長野県の特徴はどこにありますか。

【阿部】情報・電子産業をはじめとする製造業が長野県の産業の基盤。特に近年は、超精密加工技術を生かし、小型で高機能、付加価値の高い精密部品を手がける企業も増えています。

そうした高度な技術の集積を背景に、研究開発拠点の立地が増加しているのも本県の見逃せない特徴です。実際、過去10年間の研究所の立地件数は全国3位(※1)。最近も、日本無線や日置電機などが新たな拠点を設けています。また今年7月には、白色LEDの分野で世界トップの日亜化学工業様が下諏訪町に進出して、研究施設として、その機能を強化することを決めました。

──長野県が企業から選ばれている理由はどこにあるとお考えですか。

【阿部】例えば日亜化学工業様からは「この地には確かな技術があると確信している」とのうれしい声をいただきました。地元企業との共同研究を推進するラボも設置予定と聞いています。やはり精密技術を有した加工組立型企業などの集積は私たちの大きな強み。それが進出企業にもメリットを提供します。

一方で交通面について、長野県はいわば日本の中央。充実した高速道路網に加え、新幹線も延伸し、首都圏、中京圏、北陸へ抜群のアクセスを誇ります。県南部では、リニア中央新幹線の整備も予定されており楽しみです。

もう一つ、リスク分散の観点からも長野県は注目の的。地震の発生確率が比較的低く、大都市圏から一定の距離がある。それでいて交通の便がいい、という点を評価していただいています。

──「働く人」にとっての魅力には、どのようなものがありますか。

【阿部】平均寿命が男女とも全国1位で、高齢者の就業率も全国1位。そして実は、移住したい都道府県ランキングでも長野県は9年連続第1位(※2)です。これは“元気に働き続けられる環境”がしっかり整っている証しでしょう。あわせて現在は、「森のようちえん」等を県が認定する信州型自然保育認定制度をスタートするなど、子育て環境の整備も推進中。暮らしやすさにもさらなる磨きをかけているところです。

スタートダッシュを多彩な支援策で後押し

──県としては、どのような姿勢で企業をサポートしているのでしょうか。

【阿部】県内に立地した企業がスムーズに事業のスタートを切れること、そして持続的にイノベーションを起こせること。これを重視しています。江戸時代に佐久間象山を生んだ信州は、もともと進取の気性に富んだ県民が多い土地柄。セブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文CEOをはじめ、多くの優秀な経営者を輩出しています。また今年、イノベーション活動を実施している企業の割合が全国トップという調査結果も発表されました(※3)。今後は、企業活動において“革新性”や“チャレンジ精神”がいっそう重要になるでしょうから、その部分をしっかりサポートしていきたいですね。やる気のある企業や人を最大限に後押ししていくというのが長野県の基本姿勢です。

例えば「信州ものづくり産業応援助成金」。これは一定の要件を満たした企業に最大10億円を助成する制度です。また本社機能を県外から移転した企業に対して、事業税、不動産取得税を最大95%減額する支援策、国の優遇制度の対象とならない小規模な本社等の移転に対する助成制度も設けました(一定の要件あり)。いずれも進出時のコストを軽減し、事業者にスタートダッシュを切ってもらうことが狙いです。

──「日本一創業しやすい県づくり」にも取り組んでいますね。

【阿部】新たな事業の誕生は地方創生の何よりの原動力ですから、相談窓口の設置や減税措置、低利での融資など、さまざまな支援策を用意しています。実際、県が提供する創業等に関わる信用保証の利用件数はここ5年でほぼ倍増しており、着実に効果が出ています。現在、県立の4年制大学の設置を予定していますが、ここでもグローバルな視点を持ち、イノベーションを創出できる人材の育成を図っていく計画です。

──最後に長野県での事業活動に関心を持つ人へメッセージをお願いします。

【阿部】もともと私は東京出身ですが、豊かな自然環境や個性的な伝統、文化を持つこの地で暮らし、単に経済面だけではない真の豊かさを実感しています。そんな長野県で、ぜひ多くの人、企業に新たな事業を始めていただきたいと思います。今、私たちが目指しているのは、“地方創生のフロントランナー”。その実現のためにも、さらなる躍進を願う皆さんをオール信州でサポートしていきます。

※1 経済産業省「工場立地動向調査」(製造業等の事業者が研究所を建設する目的で1000平方メートル以上の用地の取得を行ったものが対象)
※2 宝島社「田舎暮らしの本」読者アンケートより
※3 帝国データバンク2015年8月調査