セロトニン濃度が高いと性行動は抑制される

テストステロンの影響が圧倒的とはいえ、ヒトの性衝動を決定する物質には、ほかにもバソプレシン、DHEA(dehydroepiandrosterone)、LHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)、プロゲステロン(黄体ホルモン)、セロトニン、ドーパミンなどさまざまあり、脳の男性化とヒトの男性性を調節します。テストステロンが減少するとLHRHがLH(黄体形成ホルモン)を放出させ、それが睾丸を刺激してテストステロンが増産されます。この値が十分に高くなると、LHRHからLHの経路をストップしろという指令を受け、テストステロンの増産が止まります。

これらに加え、セロトニンは性衝動を制御する働きがあります。セロトニン濃度が高いと性行動は抑制され、低いと攻撃性や性行動が生じやすくなります。抗うつ剤として知られる「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)」は、脳のシナプス内のセロトニン濃度を上昇させることでリラックス状態を生み出しますが、同時に男女の性欲とオーガズムを抑制することも知られています。女性でもセロトニン値が低下すると、男性に見られるような性的倒錯を起こすといわれています。例えばセロトニンを減少させる物質であるアンフェタミン(覚醒剤)を乱用している女性は、マスターベーションや売春などに走りやすくなり、サディスティック/マゾヒスティック幻想に支配されやすくなります。

「逮捕こそが最大のエクスタシー」と語る人もいる

そして、ドーパミンは性行為に伴い快感を増し、性行為で動機付けを高めます。ドーパミンには快楽惹起作用があるため、これを高める化学物質は乱用の対象となります。前述のアンフェタミンは代表的なドーパミン分泌刺激物質です。テストステロンによる性衝動・攻撃衝動が満たされれば、これもまたドーパミンの分泌を刺激して嗜癖化します。

このドーパミンが分泌されるのは、問題行動が周囲にバレずにうまくいったときばかりではありません。たとえバレても示談で済んだり、不起訴になった、罰金刑で済んだ、という「罪の軽さ」そのものが本人にとっては成功体験となるのです。これは窃盗症にも盗撮加害者にも共通した心理です。

問題行動を繰り返すたびに罪悪感や恥の感情、恐怖心を味わうわけですが、それらがスリルと刺激になっていきます。なかには、「逮捕されたらゲームオーバー」と語る盗撮加害者もいました。盗撮によって逮捕されないかという瀬戸際のスリルを味わうゲーム性にハマる人もいますし、極端な例では、「私にとって逮捕が最大のエクスタシー」という人すらいました。共感はできませんが、ちょっとやそっとの刺激では興奮しなくなり、罪悪感や後悔も薄れていくことは伝わると思います。

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これは盗撮に限らず、多くの依存症者は、「やめようと思えばいつでもやめられる」と口にします。しかしそれは嗜癖行動が定着するごく初期段階に限ったことです。より強い刺激とスリルを求めて問題行動がゲーム化していくと、簡単には後戻りできないのです。