盗んだそばからモノに興味を失う窃盗症のケース

共通点1:「盗撮のための盗撮」へと自己目的化

まずはじめに診断基準Aについて。ここでいう「個人用に用いる」とは、万引きをした食べ物を自分で食べたり、衣服を着用するようなことです。そして「金銭的価値のため」というのは、万引きしたものがそもそも自分の欲しいものであったり、フリマサイトで転売して利益を得るようなことを指します。そもそもすべての窃盗行為には、多かれ少なかれ「金銭的価値のため」という目的が含まれるという解釈もありますが、ここでは詳しいところまで論じません。また、この診断基準Aは、職業的窃盗犯や貧困による窃盗を除外するための基準であることをお断りしておきます。

自分で食べたり、転売するためではなく、それでも衝動的に万引きを繰り返してしまうことが、『DSM-5』では窃盗症と診断される一つの基準です。この盗んだものを使ったり、売ったりして自分のために使うことを「自己使用」といいます。

窃盗症の場合、最初はお金の節約のためや「みんながやっているから」という軽い気持ちから始めた万引きが常習化していきます。すると、なかには盗んだものを使わず、ただひたすら家にため込んだり、逆にすぐに捨ててしまう人も出てきます。歪んだ承認欲求から、他人に譲渡して感謝されようとする人もいます。自分が万引きして手に入れたものに対して、盗むそばから興味や関心がなくなり、自己使用をしなくなるケースもあります。

撮るだけ撮って見ることなく削除する盗撮加害者

盗撮加害者にとっての「自己使用」とは、盗撮した画像や動画を用いたマスターベーションのことです。また「金銭的価値のため」とは、商業目的で転売をしたり、盗撮サイトに掲載して広告収入を得ることです。

もちろん初期の段階では、盗撮したものを性的に利用し、自分だけで楽しみたいという気持ちが動機になっている人が多くいます。

しかし、やがて盗撮して性的な快感を得られたという経験が積み重なることで、「駅構内で女性を見ると盗撮して快感を得たい欲求が生じる」という条件付けが定着し強化されていきます。そうなると、万引きしたものを自己使用しない窃盗症のように、盗撮したらそこで満足し、画像を撮るだけで見ることもなく削除をする人もいるのです。

「盗撮のための盗撮」と表現した当事者がいます。当クリニックで治療を受けた盗撮加害者521人への調査で、「盗撮したデータの使用方法」について尋ねたところ(図表1)、「保存&自己使用なし」が16%、「保存なし&自己使用なし」が25%を占め、盗撮してもマスターベーションしない人はおよそ4割にのぼることがわかりました。

『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)より
盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)より

この「盗撮のための盗撮」は、窃盗症との共通性を提示するだけでなく、行為依存としての盗撮を如実に表す言葉だといえます。