「バレるかも」緊張からの安堵でストレス低減の感覚を得る

共通点2:緊張と緊張の緩和

ふたたび窃盗症の診断基準を見ていきましょう。

B:窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり。
C:窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感。

「盗みたい」という衝動により、盗みを行う前の段階では「バレないかな」といった緊張感を味わっています。そして成功したときには「うまくやった」「なんとかバレなかった」という解放感や満足感を得るといわれています。この万引きをする前の緊張の高まりと、万引きをしたあとの解放感や満足感、つまり「緊張と緊張の緩和」の流れによって一時的にストレスが和らいだり、低減されたような感覚を覚えるのです。

この特徴は、盗撮加害者にも当てはまります。

駅構内のエスカレーターで目の前にスカートをはいた女性がいるとしましょう。常習化した盗撮加害者は「盗撮したい」「いや、ダメだ」「でも盗撮したい」「周囲にバレたらどうしよう」などさまざまな思いが頭の中を駆け巡り、その際はとてつもない緊張の高まりを感じています。

しかしいざ無音アプリを立ち上げて、スカートの中をサッと盗撮すると、女性は何も気づかずに立ち去ります。その後、エスカレーターを降り、駅構内の人目につかないトイレの個室でスマホを開き、写真フォルダで先ほど盗撮した画像を目にした瞬間、「はぁ……バレなかった」「なんとか撮れた」という安堵感や達成感、解放感に包まれるのです。

罪悪感は感じたのに再び渇望が湧き起こるのが依存症

これら一連の緊張感とそこからの緩和が起こる際、盗撮加害者の頭の中では、職場や家庭でのストレスが吹っ飛んだような感覚が訪れます。もちろんそれはあくまで一時的なものなので、その後に強い罪悪感や後悔を経験することも少なくありません。

この性的逸脱行動における一連の内的プロセスについては、イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズの名著『親密性の変容』(而立書房)に記述があります。

ギデンズは、依存症を生理的現象というよりも社会的心理的現象としてとらえ、「アディクション(嗜癖)とは、不器用で衝動的な過去の反復である」と述べており、その特徴として1行為中の高揚感、2自己喪失、3生活時間の一時停止、4行為後の後悔、5禁断症状(行為再開への渇望)、という5つのプロセスを挙げています。

「盗撮しようかな」「でも見つかったらどうしよう」というハラハラドキドキした感覚、無我夢中で盗撮した後の達成感やバレなかったことへの安堵感。しかしその後、すぐに「ああ、またやってしまった」と後悔が襲います。すると「もう絶対にやらない」と決めたものの、舌の根も乾かぬうちに「ああ、また盗撮したい」と渇望が湧いてくる……というわけです。

ギデンズは、精神医学や心理学の専門家ではなく社会学者ですが、これは非常に依存症の本質を突いていると思います。