ストレスで暴走した扁桃体による「ハイジャック」

ストレスを感じた扁桃体が起こすこの反応は、「ファイト・オア・フライト反応」と呼ばれます。目の前に敵が現れたときに、扁桃体は体を緊張状態にする信号を送り、「戦いを挑むか、それとも飛んで逃げるか」と瞬時の判断を迫るのです。

本来は、命が脅かされる状態になったときにだけ発動されるシステムです。生命を脅かされる危機がほとんどない現代人には必要のない機能でもあります。

ですが、これは哺乳類が分類学上、枝分かれする前から脳の奥底にある古い機能なので、私たちの脳にも残っています。

つまり人間は、脳の構造的にストレスを感じやすい生き物なのです。そのため、それほどたいしたことのない出来事にも扁桃体が反応して、ストレスを感じてしまいます。

現代には命の危機といった緊急自体はなくても、私たちは日々、慢性的なストレスを受けています。そういった小さなストレスにも、扁桃体は反応し、CRFの分泌を促します。

つまり私たちの身体は常時、扁桃体の防御反応に支配されている状態、いわば「ハイジャック」されている状態なのです。

ハイジャック状態が続くと、コルチゾールは分泌され続け、やがて枯渇します。そしてホルモンのフィードバックシステムが機能しなくなり、ストレスを抑制できなくなってしまいます。

もちろん精神的なストレスも抑えきれなくなるため、より深刻なメンタル不調を引き起こしてしまう可能性もあります。

それではなぜ、抑えきれなくなった精神的ストレスは、感情の落ち込みや暴走といったメンタル不調を引き起こしてしまうのでしょうか。

そこにも、扁桃体による作用が関係しています。

暴走した扁桃体が「メンタル」をバグらせる

慢性的なストレスによって扁桃体が暴走し、身体をハイジャックしている状態は、感情の暴走やメンタルの不調をまねいてしまいます。

なぜなら、扁桃体には前頭葉の働きを抑える作用があるためです。

前頭葉は、自制心など、いわゆる理性をつかさどる場所です。この前頭葉のはたらきが暴走した扁桃体によって抑制されると、「落ち着きがなくなる」「興奮する」「気が散る」など、いままでの自分と同じことができなくなっていきます。

いつもの自分と違う感情が続くと、人は不安や自己嫌悪を覚えていきます。そして、不安感情がしだいに恐れや怒りに変わり、感情の暴走をまねきます。

たとえばコロナウイルス流行下でも、ワクチン供給の遅さやマスクをしない人に対してものすごく怒っている人がいました。

「自分がコロナウイルスにかかったらどうしよう」という不安が、やがて「この不安はワクチン供給の遅さや、マスクをしない人たちのせいだ」と、怒りに変わってしまったわけです。人は突発的に怒るわけではありません。不安だから怖くなり、怖いから怒ったりするのです。