「おうちストレス」による不調を放置してはいけない

じつは、「おうちストレス」がきっかけになってメンタルに不調をきたしてしまう人が、最近は増えているのです。当然そこには、医学的な因果関係があります。

しかし、患者自身だけでなく多くの人が「家で快適に過ごしているのにメンタルが病むわけがない」と考えてしまい、周囲に言い出せなかったり、助けを求めたものの理解してもらえずに困っていたりする状況なのです。

まずはこの思い込みを捨て、「おうちにいてもメンタルの不調は起きる」ということを理解していただきたいと思います。

読者のなかには、「ストレス解消法を早く教えてくれ」と思う人もいるでしょう。そんな人は、『おうちストレスをためない習慣』の実践編3章をお読みいただければと思います。

ですが、クリニックで泣き出してしまった先ほどの女性のように、不調の原因がわかるだけでも、気持ちは軽くなります。ストレスは放置されることで、疲労やメンタルの不調のみならず、その他の多くの悪影響につながります。

仕事で疲れている男性
写真=iStock.com/SunnyVMD
※写真はイメージです

いま不調を抱えている人は、それが「おうちストレス」によるものではないか、本稿で確認していきましょう。

疲労回復ホルモンという“味方”はいるが…

先ほどの事例のように、ストレスはやがてメンタルの不調もまねいてしまいます。とはいえ、人体はその負の連鎖を見過ごしているわけではありません。

『おうちストレスをためない習慣』で、コルチゾール(疲労回復ホルモン)はあらゆるストレスをリセットするとお伝えしました。血圧を正常にしたり、炎症を治療したりする他、乱れた自律神経のバランスを整えたりするはたらきもあります。そして当然、感情の乱れや脳の疲労を引き起こす精神的なストレスに対しても、コルチゾールはその緩和に努めます。

そのメカニズムが、ホルモンの持つ「フィードバックシステム」です。少し専門的な話になりますが、解説します。

人間にかぎらず、動物の脳の真ん中には扁桃体という部位があります。精神的なストレスや不安、興奮、これらの感情を支配するのが、この扁桃体です。扁桃体は精神的なストレスを感じると、それを知らせるために脳の視床下部に刺激を送ります。

その刺激を受け取った視床下部は、下垂体に向かってCRF(Corticotropin Releasing Factor)というホルモンを分泌します。

そして下垂体はCRFを受け取ると、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を出して副腎に命令を出し、その命令を受け取った副腎が、ストレスを沈静化させるためにコルチゾールを分泌します。

分泌されたコルチゾールが扁桃体に「もうそろそろ信号を抑えようよ」とはたらきかけ、視床下部や下垂体から分泌されるホルモンは抑えられるのです。これが、ストレスを沈静化させるためのフィードバックシステムです。