新型コロナウイルスの影響で、テレワークを導入する企業が増えた。産業医の池井佑丞さんは「本来は働きやすい仕組みのはずだが、『テレワークがつらい』という相談は少なくない。なかには離職する人もいる」という。何が原因なのか――。
PCの前で悩んでいる、マスクを着用した人
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです

産業医のもとに届く「テレワークがつらい」の声

「テレワーク」、今ではすっかり耳なじみのある言葉となりました。その普及を一気に推し進めたのは言わずもがな、昨年以降の新型コロナウイルスの感染拡大による外出・移動自粛の影響によるものです。

東京都のテレワーク実施率で見てみますと、2020年の3月時点では24.0%であったのに対し、今年の5月では64.8%もの企業が実施したという報告が出ています(東京都産業労働局6月2日報道発表資料)。緊急事態宣言の合間であった3~4月でも56%以上が実施していますから、1年で倍以上の普及率ということになります。

そもそも、テレワークは労働者の「働きやすさ」のため、政府が以前から普及を促進してきたものです。総務省の定義するところでは、「ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方」であり、「人材の確保・離職防止」の効果をもたらし得るものとされています(総務省HP「テレワークの推進」)から、この普及率の増加は喜ばしいものだと言えるはずです。

しかし私自身、産業医の現場では「テレワークがつらい」「テレワークになってから調子が悪い」という相談を少なからず受けており、なかにはそれが原因での離職の事例もあります。

企業としてはテレワークで生まれた不満や不調の解消に努めることが大切になってきます。

今回は、テレワークがもたらす不調の原因とその対策についてお話しします。

コミュニケーション不安を抱く人の転職意向は1.7~1.8倍

テレワーク普及の弊害として最も大きいものは「コミュニケーション」の問題だと私は考えています。

テレワーカーとその上司に対して行われたアンケート調査によると、「相手の気持ちを察しにくい」という不安を持っている人はテレワーカー中の39.5%、上司では44.9%にもなり、双方が非対面でのコミュニケーションに対する不安を抱えていることがわかります。また、「仕事をさぼっていると思われていないか」「公正に評価してもらえるのだろうか」と疑心暗鬼になっている人は、そうでない人の1.7~1.8倍の転職意向を持っていることも明らかになりました(パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」)。

冒頭で、テレワークは「人材の確保・離職防止の効果」をもたらし得るものだとお話ししたはずですが、実際にはこれだけの方がテレワークに不安を抱き、転職を意識しているというのです。

この問題はどうして生じているのか。それはコロナ禍による急ごしらえのテレワーク対応のため、リモート環境における人間関係の調整法が確立していないからだと考えられます。コロナ以前まで当たり前に行われていたコミュニケーションの機会が失われ、突然テレワークとなった結果、うまく意思疎通ができないことがストレスとなることは当然でしょう。